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3-6
「またか」
ルキアが探査機を確認してため息をつく。
見回した現場は痕跡ひとつ残らず静寂を保っている。
ここ数日夏梨たちが現場にたどり着く前に虚が消滅しているという状況でなければ素直に喜べるのだが。
夏梨は別の死神じゃないの?と軽くいうけれど、ルキアは納得できていなかった。
そもそもここの担当は自分で、隣接している担当死神も用があるならこちらに直接連絡してくるはずだ。
「何が起こっているんだ?」
ルキアは眉をよせ、夏梨は自らの体に戻ろうと背を向けた。

「うざい」
「ふえ、どうしたの夏梨ちゃん?」
織姫が春巻きを頬張りながら首を傾げる。
たつきもこちらに視線を寄越す。
「ちょっとね」
不機嫌に眉を寄せながら夏梨はお弁当箱の蓋を閉めた。
「最近視線を感じんの」
「お前に惚れてるやつじゃねえの?」
「そうかも。ねえ誰誰?」
「あたしの知っている人?」
たつきの言葉に遊子と織姫が反応する。その顔は三人ともとても楽しそうだ。
どうして女ってこういう他人の恋愛話が好きなのだろうかと、自分も同じ性別ということを棚にあげて考えつつ、夏梨はますます不機嫌そうにお弁当箱を片付けた。
「で、誰か判ってるんだろ?」
自分と同じく恋愛ごとにまったく縁のないたつきの笑顔に、夏梨はにっこり笑って拳を突き出した。

ここ数日ずっと視線を感じている。たつきの言うようなそんな色っぽいものではないことは明白。
惚れた相手に殺気は飛ばさない。
『石田雨竜』同じクラスの男で、学年一の秀才。
そんな男がどうして自分を気にかけているのか分からなくて、ずっと放置していた。けれどさすがに毎日毎日だとうっとうしくて。
仕方ない、分からないことは聞くまでだ、と夏梨は石田が通るだろう道で待ち伏せた。
「何の用だい?」
石垣に腰掛けて待っていたら、気づいていたのか向こうから声をかけてきた。
「それはこっちの台詞だよ。数日前からなんだよ。うっとうしいんですけど」
「君、死神だろう? 死神の霊絡は赤い。とてもよく目立っている」
いきなりそういわれて、夏梨は眉間の皺を深くした。
「……霊絡が見えるって相当だって聞いてるけど、あんた何なのさ」
鋭い目つきで睨み付ける。
「僕は死神を憎む」
出てきた言葉は思いもよらないものだった。
「…石…田」
その瞳は本気で怒りと憎しみと、悲しみに満ちていた。



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3-7
「夏梨ここにいたのか」
ルキアが後ろから駆けてきた。
「夏梨、誰だこいつ」
一瞬体から力が抜ける。ルキアは以外に人の顔を覚えるのが苦手らしい。石田はルキアが来たとたん表情を変えた。怒りと憎しみの表情がさらに増す。ルキアもその表情にただ事ではないと、気を引き締めていた。
「石田雨竜。ウチのクラスメイトの一人で学年一位の秀才。確か手芸部だったはず」
「手芸?」
「そう。以外に見えるけど、かなり器用でね。織姫情報によると服も作れるとか。あたしが知ってるのはそれくらいだよ」
「そうか」
「で、クインシーって何?」
「クインシー?」
「そう、石田が自分のことをそういったんだよ」
「……私も話でしか聞いたことはない。200年も昔の話だ」
一息つくとルキアは言葉を紡ぐ。悲しい悲しい物語を。




「……死神ってのは最悪だね」
「何故だ? 悪いのはクインシーだろう?」
「ルキア。それ、コンの時も思ったけど、本気で言ってる? 掟だってだから仕方がないって」
「お前たちを守るためだ」
その言葉に自夏梨の中にあった言葉が溢れた。
思わずルキアに向かって叫ぶ。
「くだんない。あたしたちのために命を管理するって? ふざけんな!! 何様だ!!」
その言葉にルキアは眉を寄せる。
「今回あたしは石田につくよ。死神のやり方はおかしい!!」
石田は驚いたような顔をする。
けれど夏梨は石田にも言い募る。
「あんたも過去を忘れろとは言わないけど、もう少し柔軟になれよ!!」
「何を、だって死神は僕の祖父を救ってくれなかった!!」
「何不幸を背負ってますって態度とってるわけ!? あたしだって、あたしだって虚に母さんを殺された!!」
そう、最近感じていた疑問。溢れてしまった疑問。どうして死神は助けてくれなかった? どうして救ってくれなかった?
その言葉に石田の動きは止まる。
「あたしは、あたしの母は虚に殺された。あのときはわかんなかった。けど、今考えるとあれは虚だった」
悔しい。今でも思い出すと胸が詰まる。
声が意に介さず沈んでいく。
「あんたが祖父を救ってくれなくて恨むのは分かる。あたしも恨むよ。けどな、あたしは恨めない」
何故かって? そんなのは簡単だ。
「家族を助けてくれたのは、死神なんだ!! あたしは今、生きている人を選ぶ。
過去に捕らわれてるだけじゃ進めない。そこから何を選んでどう生きるかだ!!違う?」
しばしの沈黙の後で、
「悪かった」
泣きそうな声で石田は呟いた。

h20/3/13拍手文
h22/1/30転記
一応、夏梨死神代行設定完結。
この続きは本サイトの白黒御題とか長編になってます。

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