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※中に丁稚という単語がでてきます
人にとっては悪く取られることもあるのでご注意ください
作中に出てくる酒はもちろん存在しません
「これ、おいしー」
つまみのするめを口に運びながら、織姫が笑った
「織姫、駄目だよ全部食べちゃ」
眼鏡の青年が織姫と呼んだ少女をたしなめる
「だって雨竜、お酒ってずっと呑んでると、おいしくなくなるんだもん」
織姫が不満そうに口を尖らせた
すると体格のいい青年が、急須を手に取りお茶を注ぎ、織姫の前に置いた
「つまみだけ食べるのも身体に良くない」
「チャド君ありがとう」
「あっ、チャド俺にもくれ」
チャドに呼びかけたのは、窓に腰掛けていたもう一人の青年
彼は頷いてもう一つの湯飲みを青年に差し出す
「さんきゅ」
受け取った青年は熱いお茶に息を吹きかけ、一口飲む
「君は丁稚のくせに生意気だな」
「生意気だね」
雨竜と織姫が笑ってからかった
丁稚・一護は眉間に皺をよせうなる
「うるせぇ、どうせ、店主や看板娘にはかなわねぇよ」
からかいにからかいで返して、そのまま彼は掛けている窓から空を眺めた
空には月がなく、星が光っている
季節は夏なので、開いている窓から心地よい風が入り込む
一護は湯飲みを床に置き、側にあった酒瓶とお猪口を手に取った
「また新しいの開けるの?」
織姫は半ば呆れたように丁稚を咎める
それもそうだろう、彼らの周りには開いた酒瓶が片手の数が足りないほど転がり、空いてない酒瓶のほうが少ない
「大丈夫だって、これは結構甘くてな、最後に呑むのがお勧めだ。多分娘好み」
「本当!!」
嬉々として近づいてくる織姫に、チャドは新しい四つのお猪口を一護に差し出す
一護は礼を言って受け取ると、それぞれに注いだ
それぞれに渡った酒を各自が口に含む
「甘い。おいしい」
ほぅ、と織姫が息をつく
「だろ」
一護はにっ、と笑う
「甘すぎる」
そう言ったのは雨竜で、チャドも同じく頷いた
「お前らにゃ、甘すぎたか。んじゃこれ」
違う酒瓶を手に取り注ぐ
酒を口に含んだ二人はうまい、と言葉をこぼした
「実はこれはな、同じ材料から出来てるんだ。作るときの温度が違うだけ。それだけでこんなに差が出るんだ」
そこで言葉を切ってまた空を見上げる
月のない空
瞳を閉じてそのまま続けた
「時間がたつにつれて、甘いのは辛く、辛いのは甘くなって味が入れ替わる」
瞳を見開く
「さらに時間をかけたら、その中間、同じ味になるんだそうだ」
一護は腰掛けていた窓から立ち上がり、三人に振り返った
その瞳には強い光が宿り、その瞳を見た三人は背筋を伸ばす
「同じものが、道が違ってもいつか必ず同じところに行き着く。俺は俺たちもそうだって信じてる」
そう言って三度(みたび)空を見る
その背を見つめる三人は、その背に背負っていない、背負っているはずの真白の羽織と『零』という数字を見た気がして、膝をつき頭を垂れた
「我らは何が起ころうと」
「任務を遂行し」
「誰一人欠けることなく戻って参ります」
「「「我らが隊長の御許に」」」
しばしの沈黙を破ったのは一護と呼ばれた青年
彼は自分達がついていくと決めた青年
「また」
その声に三人は顔を上げた
「ここで呑もう」
そう笑う
「はい」
「ここで」
「この時間に」
三人はもう一度頭を下げた
明日が別れの時