「アジューカスだと!!」
「何でこんなところに!!」
「隊長の、むしろ王族特務の管轄だぞ、俺たちには無理だ!!」
現れたアジューカスに一緒にいた平隊員は怯える。
――糞どもが
心の中で悪態をついた『一護』は『彼』らしい顔をして命じた。
「下がれ!! お前たちには無理だ!! 戻って応援を呼んで来い、ここは俺が引き受ける!!」
「一護三席!?」
「しかし、」
「早くしろ!!」
渋る隊員を叱咤し下がらせることに成功した『一護』は表情を一変させる。
瞬間、アジューカスの目が光を失った。
声にならない悲鳴があたりに木霊する。
「本来なら一瞬で消してやるんだがな」
口の端を吊り上げニィ、と嗤う。
普段の『彼』からは想像もつかない顔。
「だが、そういうわけにもいかなくてな。だから…」
愛刀を振り上げ楽しそうに言った。
「しばらく遊ばせてもらうぜ」
零圧を元に攻撃してくる虚を紙一重で避けながら、確実に傷を負わせていく。
数分後には虚は傷だらけなり膝をついた。
「信じられないって顔だな。まっ、元々お前と俺じゃあ格が違うんだよ。雑魚が」
しかし、アジューカスにはもう聞こえていない。
意識はすでに飛んでいる。
そして愛刀を振りかぶる。
「さてそろそろとどめといくか。これくらい時間をかけりゃ怪しまれることも……!!」
――この気配
その気配を感じた瞬間『一護』はその場から瞬歩で消えた。
近くの建物の影に隠れ、口の中で詠唱を唱える。
彼の周囲に結界がはられた。
これで向こうにこっちの気配は遮断されることになる。
空間が歪み、一人の男が姿を見せた。
「…何をしている」
「…ウル…キオラ」
ウルキオラと呼ばれた男はアジューカスの姿を見ると、眉を寄せる。
「無様だな」
「これは……」
「帰るぞ。まだ、時ではない」
アジューカスの話など興味がないというように背を向ける。
そのまま二人はその場を去った。
「あれが、ウルキオラだと」
驚いたように呟く。
彼はウルキオラという虚にあったことがある。
けれど、前回あったときと違う。否、違いすぎる。
「虚圏で何が起こっていやがる」
空紋ではなく黒腔で現れたことも「時ではない」との台詞も気にかかる。
ウルキオラならいつかはアジューカスからヴァストラーデに進化するだろうとは思っていたが、あれはもはやヴァストラーデでもない。
そこまで考えて、『一護』は頭を振った。
否、そんなことは関係ない。
それを知ったとしても、動くことは出来ない。
『一護』を知っている虚には会ってはならない。
出来ることはただ一つだけ。
「……帰らねぇと。ああ、無傷で帰るとマズイか」
彼はまったく傷を負っていない。
三席といえども、アジューカス相手に無傷であることは済まされない。
運が良かったといえばいいのだろうが、怪しまれるのは極力避けたい。
本来の力なら一瞬で片付けられるがそうもいかない。
けれど、この身体に傷をつけられるのは誰であろうとも嫌なのだ。
「しかたねぇ」
そう呟くと、彼は自身に刃を向ける。
ばれてはいけない。
そのために最初に相手の目を潰した。
光を失ったことで、自分の姿も霊圧も覚えていないはずだ。
彼ではないと見抜かれてはいけない。
だまし続けなければいけない。
それでも気にかかること。
お前はそれを知っているのか?。
声に出さずに呟いた。
けれど、返事が返ってくるはずもなく。
変わりに空間が歪みそうな気配。
もうすぐ応援が来る。
『一護』への応援だ。
「俺は『一護』だ」
言い聞かせるように何度も口にする言葉。
俺に出来ることはただ一つ。
それは今までもこれからも変わらない。
ただ一人が願ったこと。
《何があっても生きてくれ》 ただぞれだけを考える。
ただそれだけ……
ただ、

生き抜くことだけを考えていて




h20/6/10