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「ここは四番隊以外はほとんど知っている人がいないんです」
花太郎にそう言われて安心したのはつかの間、水路の向こう側から響いた足音に攻撃態勢をとった。
「やっぱりここだったか」
「誰!?」
聞こえた声に花太郎は顔を真っ青にした。わずかな光でぼんやりと浮かび上がったのは一人の男。花太郎はその男を知っている。
「い…一護…三席」
声は強張って震えている。そして岩鷹はその名前に反応した。
「一護?……お前死神だったのか!?三席って」
「そのままの意味さ。一番隊、第三席。お前が死神嫌ってたから黙ってただけ。悪かったな」
淡々とした口調。夏梨は不振げに眉を寄せて一護を見た。
「四番隊の隊員しか知らない場所って聞いたけど」
「確かに。ここの通路を把握しているのは四番隊のみ。でも俺も知ってる。総隊長でさえも知らない場所を俺は知っているし把握している」
「総隊長の懐刀ってわけ?」
「違う。俺は俺の理由で知ってるだけさ」
そこで一息つくと、一護は夏梨を見定める。
「黒崎夏梨だな」
「何であたしの名前を知ってる」
あんたもルキアと会ったのか?とその問いに一護は首を振った。
「お前がこの世界をひっくり返すつもりなら協力してやる」
その言葉は予想外の何者でもなかった。
一番隊はどこよりも規律に厳しい隊。そして三席でありながら彼はアジューカス級を倒せるほどの人物だと聞いている。それは自分たちを許さないだろう存在。
なのに、彼は自分たちに力を貸そうとしている。罠ではないだろうか、と花太郎の脳裏にその考えがよぎった。しかし、それにしては彼の様子がいささかおかしい。
実践に出る死神の中で誰よりも一番隊らしい活躍を見せる彼がこのような行動に出るはずがないと、彼と面識があった花太郎は思ったのだ。
一護は訝しげに見てくる三人の視線など気にせず言葉を続ける。
「俺には俺の優先順位がある。ただそれに従うだけ。今回ばかりは護廷の優先順位が低い。だからお前たちに協力してやるって言ってんだ」
その言葉はとても静かにこの場に響いた。

上へ上へと進む四人に突如降りかかったのは全身を絡めとる鋭い殺気。十一番隊隊長のもの。殺気で動けなくなった他の面々の前に立ち、庇うように霊圧をあげた夏梨を一護は手でやめさせた。
「ここは俺が行く。先に行け」
その目は真剣そのもので、気がついたら夏梨は頷いていた。


「ああ? なんだ一護じゃねえか」
「よう更木剣八。相手してやる」
「……いつもと雰囲気が違うじゃねか。それが素か。いいぜ来い」
「いいの?じいに怒られちゃうよ」
「やちる、さっき旅禍と一緒にいたの見てたろ。やっちまっても問題ねえよ」
剥き出しの刀を肩にかかげ、哂う獣に『一護』も哂う。
「さあ、はじめようか」
「始開もしない状態で俺に向かってくるか」
構えた刀を見て剣八はあきれたように見やる。
「悪りぃけど開放するわけにいかねぇんだ。今は、な」
「じゃあ開放させてやるよ」
言葉と同時に間合いを詰めてくる。
刀がぶつかり合う音がその場に響いた。

剣は無理でも盾くらいなら


――――――
彼ではない自分にもできることだから。



h20/10/28
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