「置いていけなどと君は残酷に」からの続き


分かっている。本当は俺から告げなければいけなかった。
けれど離れるのが恐くて、お前と別れたくなくて、ずるずるとそのときを延ばした。
それがツケ。彼の口からそれを言わせてしまった。
俺が本心では分かっていることを知っていても、さも自分が考え決意したように話す。
痛い、痛い。流れ込む大地の記憶よりもお前と離れることのほうが痛い。
だから安心させてくれ。
「死ぬな」
抱きしめられた腕が一瞬反応した。
顔をあげ、何度か瞬きをして、濡れて見難かった視界に映す顔。
俺とそっくりで、俺様で、お互いを滅ぼそうと争ったこともあったけれど、誰よりも俺を知って、近くにいた存在だったのを知っていた。
だから消えゆく彼を引き止めて、傍にいてくれと懇願した。
今では何よりも誰よりも大切にしてくれる、信頼している俺の半身。
「俺と生きるなら絶対に死ぬな」
俺が死ぬとこいつも死ぬが、こいつが死んでも俺は死なない。
「俺のために死ぬな。俺のために生きろ」
二度と会えないかもしれない。だから、
「俺として生きるなら完璧に俺になれ」
言葉遣い、対応、喧嘩の仕方、戦い方。
争いの避け方、人との関わり方、優しさ、怒り、笑い。
全てを完璧に俺の反応に。
俺を誰よりも熟知しているからこそ出来る芸当。
そして、そしてどうか人の優しさを知って欲しい。
一人にならないで欲しい。
「一護」
呟いたあと、もう一人の俺は目を細めた。
「それは命令か?」
「ちがっ。……うん、命令だ」
否と口にしかけて、彼の瞳に気づいて肯定した。
違うと言いたかった。けれどもそうしなければ彼は完璧に俺になりはしないだろう。
「命令だ。俺として生きろ。いつか再び会うその日まで。俺として、死神として働け」
目を細めていた彼は一歩下がると回していた腕を放して手をとる。
跪いたと思うと、俺の手に口付けた。


「我が王。あなたの命じるままに」


――俺はお前だけの王でいたかった。
――俺だけの王でいてほしかった。



あんたの命令しかきかないから







h20/9/1