「月牙天衝!!」
叫びと共に虚がまた数体消滅する
「畜生、何匹いやがる…」
四十六室直々に命じられた任務
任務というより、一緒に死んでしまえばいいと思っているのはあからさまに分かり胸糞悪い
五十を超えるだろう虚は一匹一匹はたいしたことはないのだが、束になってこられると厄介だった
「……ッ!!」
一瞬の隙をつき、虚の攻撃が背中を掠める
痛みより、衝撃で飛ばされた先に虚が口を開けて待っているのが見え冷や汗がでた
――ドクン
その感覚に血の気が引く
――駄目だ、来るな!!
そう強く思わなければならないのに、内に集中すると虚の攻撃にあたってしまう
『出せよ』
内から声が聞こえる
外から攻撃する虚が見える
『身体と生命どっちが大切だ?』
何も考えられなくて、意識を手放した
どうしてこんなことになったのかなんて分からない
コイツがいなければなんて何度も思った
否、俺がいなければ良かったのか
幾度も考えた思考の無限ループ
そのままズルズルと深みに嵌まっていくだけ
『なぁ、諦めんの?』
どこからか笑い声が聞こえた
『いいぜ、その身体は俺がもらうから』
その笑い声が思考の闇を打ち消す
見えたのは縦横無視したデタラメな世界
《何があっても自分を手放すな》
父との約束が頭に響く
《守ってあげるから》
なつかしい母の優しい声
もう守ってもらう年齢ではなくなった
けれど、その優しさに何度も助けられたことは事実で
現にこうして今も助けられた
『さっさとあきらめちまえよ』
嘲笑うような声が再び頭上に降ってくる
「…こと…わ…る」
うまく動かない体を無理やりに動かして、背中に手をやった
いつも必ずある愛刀の感触にほっ、と息をつく
まだ残月は俺を見捨ててはいない
「これは…俺の……身体だ!!」
叫ぶと共に残月を振りかぶる
目の前に広がったのは見慣れた空
叫びと共に虚が消滅する瞬間だった
あたりを見回すと何もない
どうやら最後の一体だったようで、そのままその場に膝をついた
『ちっ、しぶといヤツだぜ』
「失せろ」
内からの声に強く言うと、そのまま声は聞こえなくなった
なぁ、諦めんの?
――――――
白と黒の争奪戦争
h20/4/27