「嫌だ、置いていくなんて!! 嫌だ!!」
彼はすがるように俺の裾を掴む。
今でもすべてが流れ込んできてつらいだろうに、必死で意識を保って、俺を引きとめようとしている。
俺だって本当は一緒にいきたい。けれどそれではいけないのだ。
「今までと、今までの連中と同じことをして、何が変わる!? 何も変わらねえ」
頬に手をあてて諭すようにゆっくりと、けれど強い意志を込めて。
苦しそうに、眉を寄せる彼を引き寄せ抱きしめる。触れた部分から記憶が流れ込んできて、痛みが伴う。
けれど、こんなもの、一護が今受けている痛みに比べれば、これから受け続ける痛みに比べれば、それを思えば、どうってことない。
「お前を消えさせたりはしない」
お前の存在を忘れさせたくはない。今までの連中のようにさせたりはしない。
と存外に告げると、一護は腕の中で震えた。
――やっぱり
心の中で嘆息して、腕に力を込める。
「消えて時がたてば忘れられて、でもあいつらはどうする? あいつらはお前のことを忘れることは決してない」
二人でいくより俺はここに残ってお前の居場所を守りたい。
いつかあいつらと再会するそのときまで。
「一護の存在が消えるなんて許さない」
「……俺だってお前の存在を消したくない」
一護の代わりをするということは、彼の存在が消えるということ。
「俺はお前以外存在を知られていない。お前が俺を覚えていればいい」
決して俺がお前でないとバレることはないだろう。俺はお前なのだから。
「ずっと、一緒だって言ったのに」
「ずっと一緒だ」
俺はお前で、お前は俺で。鏡に映る虚像のように、光と闇のように。
「そばにいる」
分かっている、けれどこのまま一緒に行けば、二度とこちらには戻って来れない。
いままでの奴らはそれでよかったかもしれない。けれど、一護には待っている奴らがいる。その約束をたがえることはさせたくない。
一人で行かせたくはない。けれど、
置いて行けなどと君は残酷に
「あんたの命令しか聞かないから」に続く
h20/9/1