今でも後悔している
何故、応えてしまったのか
こうなると分かっていたなら、応えることなどしなかったのに


「俺と一緒に来い」
最後の戦いの後、消えゆく俺の腕を掴んでアイツは言った
冗談じゃないと思った
一緒に行くなんて、それをためらいもなく言ったアイツをおかしいと思った
だってそうだろう?
たった今まで身体の所有権をめぐって殺し合いをしていたのに、勝ったアイツはまだ戦いを続けるような言い方をしているのだ
俺が一緒にいくということ、それは戦いを続けるということに他ならない
『…馬鹿じゃねぇの』
あきれたように呟いた
それを聞いたアイツも呟き返した
「俺は一人なんだ。でも、お前がいたから一人じゃなかった」
一族を追放されて、自分一人が残って、それでもなお人のために生きようとしている
それを望んでいたのではないことを知っていた
「一人は嫌なんだ」
雨が降る
二人きりの世界に静かに降ってくる雨は、身体の持ち主の感情
一族がいなくなってからこいつは笑うようになった
比例してこの世界には雨が降り続ける
「一緒にいてくれ」
雨に紛れて頬に一筋、雫が流れた
腕は痛いほど握り締められる
『俺がいれば、戦いは続くぞ』
また暴走したいか?
暗に言われた言葉に首を振る
「でも……」
言葉が途切れる
掴まれていない手をそっと頬にあてた
髪で見えない顔をあげさせる
ブラウンの瞳が濡れていた
けれど、瞳の奥には強い光
ああ、この光がある限り俺はコイツに勝つことはできないだろう
そう思うほどに強い光
虚ろな俺がどう足掻いても手に入れることのできない光
『俺に勝ち続けるか?』
そう問うと、瞳の光が強くなった
「俺と来い」
もう一度アイツは言った


その日のことを俺は今でも鮮明に思い出せる
何度も何度も思い出す
あの時何かが違っていれば、変わっていただろうか
あの光に、言葉に手を取ったことを後悔している
一緒にいた時間は短かった
大切に思わなければよかった
「……王」
俺の唯一の主
主がいない世界は、アイツの最後の感情のまま風さえも吹いていない



映像はコマ送り。繰り返し、繰り返し、

h20/4/22