『今年の勝者は――』
国営放送では年末恒例の音楽番組がクライマックスを迎えようとしていた。
「あっ、お兄ちゃんチャンネル変えて」
遊子が一護に言葉を投げかける。
「どこ」
「男がいっぱいダンスしてるチャンネルでしょ」
ああ、ジャ○ーズね、と一護はチャンネルを変えた。
「夏梨ちゃん、その言い方変」
「だって本当じゃん。あっあたし天ぷら」
「駄目、ルキアちゃんが先」
遊子が持ってきた年越し蕎麦の具は、天ぷら、なめこ、御揚げ、掻揚げ、鶏肉の五種だった。
夏梨が天ぷらに手を伸ばそうとしたのを、遊子が叩いてやめさせる。
「ルキアちゃん、年越し蕎麦食べたことないって言ってたし。それにちゃんと手伝ってくれたもん」
小さくケチ、と呟いたのが聞こえたのか、遊子は夏梨ちゃん最後ね、とおぼんを遠ざけた。
「まあまあ、私はなんでも結構ですわ。夏梨ちゃん天ぷらをどうぞ。ねえ一護」
「ん、まあ俺は何でもいいよ。親父があまりでいいだろ。遊子、お前はどれにすんだ」
「夏梨ちゃんを甘やかしすぎ」
といいながら、遊子はなめこを引き寄せた。
ルキアは掻揚げを選び、一護は鶏肉を持ち上げる。
夕食は重箱に入りきらなかった御節を食べて、それがまだ残っている。
お腹がすくことがないため、あまり量は変わらない。
「お父さんは余りか!! 酷くない!? 俺一家の大黒柱だぞ!! もっと敬え!!」
トイレから戻ってきた父が大げさなリアクションをかます。
夏梨と一護は無視。遊子は早く座りなよ、と声をかける。
ルキアもこの状況には慣れて、気にもせず自分の席に座った。
「ああそうだ、親父。俺この後ルキアと出掛けっから」
「何!夜中のデートだと!! お父さんは、許す!!」
オーバーな驚き方で場を沸かそうとするが、実子三人はいつもどおりの反応を返すだけ。
「そ、そんなデートだなんて、お父上。クラスの皆さんと初詣に行くだけですわ!!」
ルキアだけが反論している。めずらしく慌てているルキアを見て、双子は互いに目配せしあった。
『何々、やっぱり二人って付き合ってるの』
『そうじゃないでしょ。これはルキアちゃんが一兄に惚れてるんだよ』
『なるほど。お兄ちゃんはルキアちゃんのことどう思ってるんだろう』
『うーん。友達、かなあ。一兄結構女友達多いし』
『私ルキアちゃんならお義姉ちゃんって呼んでもいいんだけどな』
『まあ一兄に春は遠そうだね』
さすが双子、目線で会話もばっちりだ。
面白いほどに慌てているルキアは可愛い。
織姫にもない可愛さを秘めている。
兄を取り巻く恋愛模様を妹二人は知っている。
ソースである兄の幼馴染は織姫を応援しているようだけれど、兄の嫁は自分たちの義姉。
私達を納得させるような女じゃないと許さない、とひそかに決意しているが、織姫とルキアなら話は別。
どちらでも義姉と呼べるような立派な女性なのだ。
獲られるような気がしなくもないが、仕方がない。
二人はもう一度目を見交わした。
『3.2.1.ハッピーニューイヤー!!』
「あけましておめでとうございます」
「おめでとう」
「おめでとうございます」
いい顔の男たちが新年を祝うと同時に、黒崎家でも挨拶が交わされていた。
一通りの挨拶が終わると、一護は出かけるために自室に戻る。
とぬいぐるみ姿のコンが机から飛び降りてきた。
「おう、ハッピーニューイヤーだぜ。おっ、どこ行くんだ?」
「あけましておめでとう。チャドたちと初詣の約束してんだ」
「ってことは井上さんも!! 俺も行くぜ」
飛び上がってきたコンをはたき落とした一護は、妹たちにするように言い聞かせる。
「たつきもいるんだ。ぬいぐるみが動くのどう説明するつもりだ」
「そんなの、一護が俺を持っとけば、ゲフッ!」
足元のコンを蹴飛ばし、一護は目を吊り上げた。
「男子高校生の部屋にぬいぐるみがある時点で、可笑しいのに誰が持ち歩くか!!」
「いい蹴りだったぜ。ってそれもそうか、じゃルキア姐さんでも、ゴフッ!」
「馬鹿なこと言ってないで、もう寝ろ」
もう一度コンを蹴ってから、一護は布団にコンを投げ込んだ。
「あれ、引き出しじゃなくていいのか」
「帰ってくるまでな」
鞄をひっつかんでノブに手をかける。
ひらりと手を振って、電気を消す。
「おやすみコン」
声が優しく響いた。
そういわれれば、こっそり抜け出すこともできなくて。
「天然タラシって一護みたいな人間を言うんだよな」
みんな苦労するぜ、と一人呟いた。
――――――
あけましておめでとうございます。
勢いで書いたら収拾がつかなくなりそうだったのでこの辺でやめておきます。
一応総受け。ノーマルカプと言っておきます(笑)
何が楽しかったって、双子が楽しかった。
そしていつも思うが、親父の話し方が良く分からん。
ルキアのいい子ぶりっ子も分からん。
あってるんだろうか?
お正月の問題は、
@親友がいます。→たつき
A天然です。
Bきょうだいがいます。→漢字で示すと分かるのでひらがな表記でした。漢字なら兄妹ですね。
C恋をしています。→もちろん一護にです。
『私』は誰ですか?→というワケで答えは織姫でした。
h21.1.1