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白黒逆転パラレル破面の軍勢編
「選ぶ権利、無い言うてるやろ」
その言葉に霊圧が変わった。
死神のそれから虚のそれへと。
「ようやくお出ましか」
そして破面の軍勢は目を見張る。
想像よりも遙かに鮮やかなその色彩。
まとう霊圧は尖ったものから、柔らかなそれへ。
しかし、霊圧は誰よりも強いであろう。
今までの男が破面であったと言われれば思わず納得してしまいそうなほど、その虚は人間味を帯びていた。
その独特の破面を除けば。
「お前が一護の内なる虚か。なんやお前のほうが人間やなあ」
『うるせぇよ。無理矢理呼び出しやがって』
破面の向こうから鋭い目が平子を射抜いた。
「一護がお前を倒さな終わらへんからな。さっさと相手してもらうで」
ひよりが刀を手にかけたとき、めずらしくもリサが声を上げた。
「ちょお待ち」
「どしたの」
「アンタ、なんでこっちにいるん。アンタはココロの世界とやらで一護と戦っとかなアカンはずや」
リサの言葉に他の破面の軍勢もそのことに気づく。
「せやなぁ。なんでお前さんがここにいるん」
平子が帽子に手をやり、深くかぶりなおす。
視線は鋭く虚を射抜いた。
けれど虚は構うことなく嗤う。
『お前らが心配するようなことはなにもねぇよ。たかが破面の軍勢ごときで俺が出てきたことに感謝しやがれ」
偉そうな物言いに、ひよりが眉を顰めた。
挑発だとわかっている。わかっているけれど、それ以上に腹が立った。
その言葉は一護だけでも破面の軍勢や藍染に勝てると言っているようなものだ。
そんなことは無理だとここにいる誰もが事実と理解している。
一護が内なる虚を倒してこそ、新たな力が得られるのだ。
唯一藍染に対抗できるのは一護だけ。
ひよりはちらりと平子に視線を向けた。
それだけで平子は頷く。
「お前がここにいるならしゃあない。その破面さっさと割って、あいつに戻すだけや!!」
ヴォン、と音とともに自らも破面を取り出し、力を得る。
虚は嗤ってひらりと岩の上に飛び乗った。
『んなこと、出来るか?』
「なっ!!」
その速さに他の面々が驚愕する。
「お前は何モンや!?」
平子は虚の攻撃を避けながら、心理を読み取ろうと注意深く虚を観察する。
『俺は、黒崎一護だ!!』
哂う虚は高らかに宣言し、月牙天衝を放つ。一護のソレとは違い、一見穏やかに見えるソレは、けれども一護よりも深く鋭く地面をえぐった。
『母を、目の前で虚に殺された餓鬼だよ!!』
自嘲するように一護の姿をした虚は距離をとった。
「一護……」
『何も知らない餓鬼が、目の前で母親を殺された。それでどうして心が壊れずに生きることが出来る』
目の前で、自分の所為で死んだ母親。いくら自分を責めても、母親が生き返ることは決してない。
幼い妹を、父を、奈落の底に突き落としたのは紛れもない自分で、そして幼い少年は自分を護るために、自ら生きることを放棄した。
「一護、オマエ」
平子が何かを悟ったように、目を見開いた。
生きるのをやめた少年は、しかし死ぬことは出来なかった。
母親を亡くした幼い妹を、おいて自分も死ぬわけに行かなかった。
『死神も、虚も見える餓鬼は力を分けた。アレらが近づくような力と、優しい心を捨てた』
残ったのは無慈悲なほどの感情と、危険を察知する程度の霊力。
全ては家族を護るため。
ただ、それだけのために――……。
『俺は、』
「黒崎一護だ!!」
虚の目が光を取り戻し、人であって、死神でもある青年が、世界に帰ってきた。
ひよりの斬撃を一護は弾く。
虚を出せという破面の軍勢に一護は否定し続けた。
アイツに魂を明け渡すのは、二度とご免だ。
二度と――
けれどそれは叶うことなく、命が脅かされた瞬間に覆される。
『代われ!!』
優しい声とともに、意識は遠くなってゆく。
どれだけ自分が嫌だと思っても、視界は変わる。
『ここで待ってろ』
「俺はお前に指図される覚えはねぇんだ!!」
叫んでも、それは破面の軍勢に届くことなく、一護は内なる世界へと飛ばされた。
内なる世界に飛ばされた一護は、当たりを見回した。
「あのくそ虚が、また勝手に入れ替わりやがって!!」
嫌だと思ってもどれだけ反発しても、その引力に逆らえない。
「出せ!! ここから出せ!!」
『出るなら自分で出やがれ』
出れるなら、そうしていると、一護は歯がゆくて壁に拳を叩き付けた。
「俺は、決めたんだよ!!」
あの時、母親が死んだときに、失わせてしまった母親の変わりに妹たちを護ると。
「なにが『一護』だ!! 護れなきゃ意味がない!!」
死神の世界も、虚の世界も、破面の軍勢の世界も自分には関係ない。
ただ、自分たちの暮らしの平穏が保たれればそれでいい。
「ここから出せ!!」
『出して欲しければ、俺を越えろ』
外で虚が戦っている気配がする。その上で、虚は自分と会話をする余裕があるのだ。
それが苛立たしくて、一護は自分の背から斬月を引き出した。
白い手。白い髪。白い死覇装。
虚よりも虚らしい自分は本当に自分なのかと考えることがある。
「俺は一護なのか」
自分よりも、今外にいる虚のほうが、一護らしい。
人よりも明るいオレンジの髪。暖かな肌。柔らかい視線。
「俺は、誰だ」
一護が呟いた。
空を仰ぐ。
俺は誰だ。
空の色が変わる。曇り空が濃くなる。
――主の気持ちによって、この世界の気候は変化する。辛くなったらここへこい。この世界の主は、オマエだ
「俺は」
一護は自分の目を覆った。
「誰だ」
――俺を使え。俺は騎馬だ。主が願えばそれは力となろう
「俺は」
一護は斬月を握り締めて目を閉じた。
力が徐々に集まってくる。
大気がそれに呼応するように、渦巻いたが、一護はそれに構わず、構えた。
『俺は』
外と内の世界が繋がる。
「黒崎一護だ!!」
振り下ろした斬撃は、内なる世界を飛び出し、破面の軍勢へと届いた。
――いいのか?
それはそう遠くない昔の話。
自らの力を分けた少年は、もう一人の自分に問いかけられた。
――いいんだ。僕がいれば、また皆に迷惑がかかる。
狙われる力と、優しい心を持った少年はこの地に残ることを決意した。
――けど、
家族への慈愛の心。そして最低限の危険を察知する力を受けついだ少年は、その言葉に眉を潜めた。
――オマエも、忘れるといいよ
顔をあげた少年は、もう一人の自分の頬に手をやった。
驚いたもう一人の少年が逃げ出す前にその記憶を封じる。
これで自分を知る存在は誰もいなくなる。
――ばか、やろ。
何をしようとしたのか悟った少年は、最後の力を振り絞って送られる力を逆流させた。
――何を!!
気づいたときにはもう遅い。外に戻った少年の姿はとうになく、自分が受け継ぐはずだった虚の相貌は母親と別れる前のそれに変わった。
考えるまでもなく、もう一人の少年があの相貌を持っていってしまったのだと気づく。
――ごめん、ごめん
少年は泣きながら、謝った。
もう一人の少年は、すべてを捨てた自分に人である姿を残していった。
――本当にごめん。ありがとう。
自分たちは一つだと、そう言われている気がして、礼を言った。
そうして少年は贖罪に、一つの光を見出した。
いつしかもう一人の少年が失ったはずの力を取り戻したとき、影となり、自分の力を彼に返すことを。
そのために、自分は悪役になっても構わない。
それはそう遠くない未来の話になるだろう。
そうして少年は眠りについた。
――――――
h22.2.22
すみませんとしか言えないんですが、一周年記念の時にリクいただいた白黒逆転パラレル破面の軍勢編です。
5月頃までフリーです。
いろいろ言わなきゃいけないことはありますが、ここはなしで。
ありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
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