それはいつものことで、さして気にするほどのことではなかった
それがいつからか、恐くなっていった
それはいつも唐突に訪れる
愛しているとその口で
めずらしく手が開いていたから、これまためずらしく書類を運んでいた、その途中
「技術開発局っすか? 勘弁してくださいよ、俺どうしてもあそこは苦手で」
「と言って皆が皆断るのは目に見えているから、順番になってな、今日はお前だ。さっさと行ってこい」
廊下の向こうから声が聞こえてくるが、嫌そうな受け答えにこちらから声をかける必要性もまったくなく、あえて進む
角を曲がったところで、会話の主たちに遭遇した
「あっ、ぎ、技局の……。これ、技局あての書類なんですけど」
「ああ」
あからさまな反応にも何の感情も見せずに受け取った
「それじゃあ、これで」
渡すだけ渡して若い隊員はそそくさとその場を去っていく
「めんどくせえ」
平隊員の怯えを隠そうとする反応も、笑っていても異色なモノを見るような目も何もかもが面倒くさい
慣れてしまった。相手をするのもされるのも、どうだっていい
「檜佐木副隊長」
書類を渡して技局に戻る途中、その名前に反応した
階下を見ると向こうのほうであいつがいた
何人もの隊員に囲まれて、笑っている
面倒見がいいから、他隊の隊員からも慕われているのは知っている
それを目にすることはあまりなかったが
「あいつさっきの」
先ほどの平隊員もそこにいた
誰に対しても笑う彼に、どくん、と心臓が脈打つ
嫉妬?
そんなものなんかじゃない
これは、これは……
本当にいつもそれは突然で、最初はどうすればいいのか全然分かんなかった
いつものように阿近さんの部屋に入って来て、戸を閉めて振り向いた瞬間にはもう身動きが取れなくなる
俺の背に回っている腕がしっかりと俺を捕らえていて、痛いくらい強く抱きしめられていた
非戦闘員の彼になぜこんなに力があるのかわからない
押し倒されるときもそう思う
このヒトが本気で俺を殺そうとしたら、俺は何かをする暇もなく殺されるんだろうと確信できる程に
でもいつも強気の阿近さんが、急に小さく見えたので思わず抱きしめ返した
「好きですよ」
そういっても彼の腕は緩まらない
彼の欲しい言葉が何か知っていて言う
滅多にない彼の姿を見て楽しむ
彼もそうだが、俺もかなり悪趣味だと思う
あぁ、彼のが移ったのか
しばらく彼を見て、ようやく意地悪をやめる
だから言う
彼がホントウに欲しい言葉を
好きという不特定多数の言葉じゃなくて、
「阿近さんだけを愛してます」
ただヒトリに捧げられる言葉
その言葉を聞いてようやく彼の腕が緩んだ
「……しゅう……」
いつも見上げる顔に見上げられて
不適な顔が心細そうに見えて、俺は笑った
自ら身体を摺り寄せる
それからはすべてがうろ覚え
頭が白くなるほど何も考えられなくなる
いつもよりもハヤクと急かしてくるようで
そして白い闇に落ちる瞬間
「愛してる」
と、彼が囁く言葉を聞いて、満足する
滅多に見せない不安定な彼からのお礼の言葉
でもきっと次の日にはいつもと同じような不適な顔して、笑うんだ
誰になんと言われようが、そんなのはもう慣れた
だけど、ただ一人こいつだけに、こいつの一挙一動が気になって仕方がなくなる
九番隊の書類を持ってくるのはいつもこいつで、それがどうしてか分からない
『会いたいから』と言った。でもそれが本当かどうかが分からない
面倒見がいいから、ここに誰も来たがらないから、だからかわりにこいつがくるのか
水に投じられた小さな石は、大きな波紋をつくる
だから、
俺よりでかいのか、そうでないのかよく分からない身体にしがみついて、
こいつの優しさに漬け込んで、言葉をねだる
確認する
「阿近さんだけを愛しています」
本当に本心から言っているのか不安になって、押し付けていた顔を上げた
ふわりと笑うその顔は、他隊員に見せるような顔なんかじゃない、ただ俺に向けられる魅惑的な微笑み
態度だけじゃ不安になる
だから、言って欲しい
『愛している』と、その口で、その声で、その姿で
それでようやく安心する
――――――
甘?
私的には甘かなぁ
甘えてる阿近さんってイメージ
ちなみに初阿修です
想像したことはあるけど、書く機会がなくてね
阿修はやたら悲恋が思い浮かぶ
長編も考えてますが……悲恋ってどうよ
どうにかしてくっつけてから長編書こう
思ったよりよくできたなぁと自己満足
h20/2/18