動物





「お前って犬にそっくりな」

酒屋で気持ちよく飲んでいたところ、唐突に言われた恋次は眉をよせた

「なんすかいきなり」

「うん、で、吉良は狐っぽい」

後輩を無視して続けた言葉に、もう一人の後輩があやうく飲んでいた酒を吹き出しかけた

「草鹿は鼠とか兎とか栗鼠とか、とにかく小動物系」

「あたしは、あたしは?」

割って入ってきた乱菊をみて一言

「猫」

「猫ぉ〜? あたしそんな我侭じゃないわよ」

ねぇ、と恋次と酒でむせている吉良に同意を求めたが、二人は無言を貫き通した

「雛森はヨークシャテリアかコーギー」

「えらく限定していませんか?」

雛森本人が口を挟む

「ちっこいけど、しっかりしてる」

言っている本人は、誰の言葉にも耳を貸さず、手を顎に添えたまま視線は中を彷徨っている

「それじゃ先輩はなんですか?」

「黒猫」

「「ノラ猫」」

吉良が聞いて、雛森が答え、恋次と乱菊が重なった

その回答に彼は爆弾を落とす

「黒いノラ猫って阿近さんだろ」

「「「「……は?」」」」

見事四人の声が重なった

「誰が黒いノラ猫って?」

懸命にも乱菊が返す

「だから阿近さん」

「何で?」

聞いたのは恋次

「だって、いつもぎらぎらして人を寄せ付けないし、余裕なくて気紛れ屋で、でも逃げようとしても、裏道を知り尽くしてるから絶対に逃げられない」

「何、惚気?」

そう言って酒をあおる乱菊に、腕に顔を埋めて否定する

「違いますよ。でも結局あのヒトはノラだから全部気を許してくれる訳じゃない。……だから、どろどろに甘やかすのが理想なんだ」

「……逆じゃないっすか?」

ぽつりと呟いたその言葉に、恋次は疑問を返した

端から見ても、彼がこのひとを甘やかすことはあれど、逆は考えにくい

「失礼だな」

がばりと顔を上げて、彼は後輩を睨んだ

「良いんだよ。あのヒトにゃ、甘やかす人が必要なのさ」

ふ〜ん、と興味をなくしたような相槌を打って、乱菊は酒の追加を頼んだ

「あっ」

ふと雛森が入口を見て声を上げた

恋次、吉良、乱菊もそちらを見て目を瞬かせる

ぐいっ、っと首襟を掴まれて立たされた

「修兵、帰るぞ」

振り向くと三本の角を持つ男

振り向いたほうも特に驚いた様子もなく頷いた

「うん」

じゃあお先に、と言って帰っていく二人を見ながら吉良が呟く

「充分甘えているように見えるけど」

残りの三人も頷いた

鬼と称されるあの男をノラ猫と呼び、甘やかせたいと望むのは、この世界広しといえども探しても他に見つからないだろう



「何でここ最近来なかった?」

「そうだっけ?」

仕事が終わると必ず顔を出していたのに、顔を出さなくなって約十日

いつ耐えられなくなるのか測っていたのだが、意外と持ってしまった

そして一昨日、ようやく探しはじめてくれ、今日見つけるに至る

彼が俺を探していたのは知っていた。知っていてわざと霊圧を消した

「しかも霊圧まで消しやがって」

「そう? 仕事中はそんなことなかったと思うけど?」

会おうと思えば仕事中に会えるのに、仕事が終わってからというのは解せない

――どろどろに甘やかして、俺なしじゃ生きられないくらいに執着させる

それが俺の願い

俺はアンタに執着させられたから、アンタに返してやる

俺もアンタと同じノラ猫だ




絶対に“逃さない”





――――――
ウチの修は若干黒かったりする
修兵のほうが精神的に大人
阿近さんのほうが子供だったり
ちなみに、修兵という表記は阿近さんの台詞にしか出ないようにワザとしてます
h20/2/25