君の知らない空の下
カタン、と音を立ててポストを開いた隼人は一瞬だけ動きを止めた。ひゅっと小さく息を呑む。次いで、何もなかったかのように郵便物を回収していく。けれどその動きはスローモーションのようにゆっくりで、彼女を溺愛する父親が見れば眉を潜めるようなものであった。
カタン、と再び音を立ててポストの扉を閉める。その音を最後まで聞きとげ、隼人は家の中へと戻っていく。居間の机に父宛ての手紙やダイレクトレターを置くと、その中から一枚の葉書を抜き出し、それを手に自室へと戻った。
自室の前で一度、隼人はその葉書にしばし見入った。眉を寄せて、苦しそうな表情をした隼人は、それを吹っ切るようにぎゅっと目を閉じてから、ドアノブに手をかけた。
中略
「……あの、馬鹿」
隼人の顔が泣きそうに歪んだ。
泣くかと思ったその表情を、ぐっとこらえ、そうして隼人は自室を飛び出す。ガタガタと音を鳴らしながら階段を駆け下りて、隼人は父親が仕事をしている店へと駆け込んだ。
「親父、話がある」
高校を卒業をしてから五年。ずっと沈んでいた娘の何かを決めた表情に、父親である剛はどうした、と包丁をまな板の上に置いた。
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P3〜5より抜粋
23山獄♀
立場逆転話。
高校卒業後別れた二人。
P20/A5/¥200