『Stretch the truth』
ドンボンゴレが代替わりした。イタリアのマフィアたちは新たなドンがどういう人物なのか、情報を集め算段する。新たなドンボンゴレは、門外顧問の息子で日本人。次期ドンと噂されていたザンザス率いるヴァリアーを自らの守護者たちと破り、その座についた。ドンボンゴレについては、そんなおもだった情報しかなく、各ファミリー情報集めを第一とし、奔走していた。
自分たちにとって有益か、不利益か。懐柔出来るかできないか。穏健派か過激派か。ただ、自分たちのため。ボンゴレでさえ、それだけの駒としかみられていなかった。歴史あるマフィアの世界も、秩序は乱れ始めていた。
ボンゴレの情報は高値で取引され、慎重に協議された。ファミリーたちが欲しがったのは、ボンゴレの幹部ではない人物たち。ドンボンゴレの要請で、幹部以上の権限を持つことになる守護者たちだった。初代と同様にボンゴレファミリーに関わらず様々なところから集められた守護者は、全てが若かく、その存在は異質だった。その守護者の情報でも実態が掴めない霧、守護者最強と言われる雲は情報は競うように値段があがる。しかし、一番高値が付いたのは、なんと言っても常にボンゴレの傍にいる、雨と嵐の情報だった。
そしてその二人の情報は過激派を喜ばせるものだった。曰く、ドンボンゴレ十代目雨と嵐は最悪の仲だ。
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「もう一度言ってみやがれ、この刀バカ」
「一度しか言わねぇって言ったんだけど」
聞こえなかった? という山本の嫌味に獄寺はこめかみを引きつらせた。書類仕事が嫌いだからと仕事を溜め、とうとう獄寺を部屋に召還してしまったのだ。どう考えても山本が悪いわけだが、山本も山本で、綱吉の護衛があったわけで、完全に山本に非があるとは言えなかった。しかし、獄寺にとってそれは言い訳でしかならず、鋭い声で険悪な表情を作ったのだ。
まただ、とその場にいたそれぞれの部下たちはため息をつく、それがまったく同じタイミングだったので、互いが互いに嫌そうに眉を潜めたが、上司が常々「向こうの奴と喧嘩なんてするだけ無駄だ」と豪語しているので何も言わなかった。それに今彼らにとっては相手を威嚇するよりも、上司を止めるほうが先決だった。
「上等だ、表に出やがれ!! 今度こそ決着つけてやろうじゃねえか!!」
「だな、そろそろ引き分けも飽きた」
いつものようにいつものごとく愛武器を持ち出した二人を見て、部下たちは慌てて止めに入る。止められるはずはないとわかってはいるが、止めなければ被害は甚大になるのだ。
部下には喧嘩をするなと言って、当の上司たちはいつも喧嘩をする。いくら嫌いだからといっても、この二人は十代目の側近中の側近で、その二人が戦うとなると色々と問題が起こるのは承知しているはずなのに、二人はしょっちゅう喧嘩する。それはもう、週の半分はぶつかる。
内でも外でも新たなドンボンゴレに敵は多い。だがドンボンゴレの一二位を争う側近が、そんなに喧嘩していいのか、と言えば、ドンボンゴレ自身がそれをのほほんと許容しているようなのだ。曰く、出会えば戦闘の霧と雲より、口喧嘩で済む二人は、大人だといえるよね、らしい。霧と雲のほうが年上らしいがそれはこの際置いておく。
「獄寺さん、今ここでの戦闘は」
「そうですよ。山本隊長も落ち着いて」
「止めるな」
「今度こそ果たす」
必死で止めようとする部下たちに上司二人は聞く耳をもたない。
このままではこの部屋で戦闘がと最悪の考えが過ったとき、呑気なその場に響いた。
「山本よかった、執務室にいてくれて。獄寺君もここにいたんだね、探したよ。母さんがお菓子送ってくれてさ」
にっこりと、この部屋の空気を意にも介さず、ドンボンゴレこと沢田綱吉は手に持った紙袋を掲げて見せた。
「食べる?」
「おおー。食う食う。何送って来てくれたんだ?」
さっきまでの威圧感は霧散し、いつも通りの穏やかな表情に戻る山本に、獄寺は眉を寄せ、顔を背けた。
「えっとね、和菓子が食べたいって言ってたから多分それと、日本で流行ってるスナック菓子の新商品だって。獄寺君は?」
山本のデスクで書類を数えていた獄寺は、その言葉に申し訳なさそうに綱吉に向き直った。
「ありがたいお言葉ですが、残ってる書類をチェックして分けないと、明日の仕事がなくなってしまいますので」
獄寺が綱吉の書類を含め、多くの書類を管理しているので、綱吉は獄寺と同じような申し訳なさそうな顔をする。
「あー。本当にごめんね。でも獄寺君しか頼れる人いないし」
リボーンになんか聞いたらぶっ飛ばされるんだよー、と綱吉は困りきった顔で頭をかいた。それに獄寺は慌てたように手を顔の前で振った。
「いえ、それが俺の仕事ですから」
「終わったらまた顔出してよ。俺の部屋で食べてるから」
にっこりと人好きする笑顔で綱吉は笑う。それに獄寺も笑い返して頷いた。
山本を伴い部屋を去る綱吉に、部下たちは尊敬の眼差しを送る。どんなに険悪な状況であっても、山本、獄寺の両名は、沢田綱吉を心の底から尊敬しているので、綱吉の前では決して仲の悪さを見せなかった。見せない、といのは語弊がある。学生時代から口喧嘩している二人だそうだから、その頃と同じくらい口喧嘩はしているらしい。が、それでも部下たちが焦るような喧嘩にはならないので、上司を尊敬している部下たちからは、尊敬されるのは当たり前のことだろう。
「たく、あいつのおかげでチェック遅れてるってのに。あの刀バカめ」
山本が去った方角を見ながら、獄寺は忌々しそうに呟く。山本の部下たちは、その言葉に眉を潜め、抗議したかったが、所詮立場は部下。何も言えずに礼をし、部屋を出て行く獄寺を見送った。
24×24