『陥落』
R18指定になります。18歳以上はお求めいただけません
いつも笑うその笑顔が嫌いだった。誰にでも見せる、その笑顔が嫌いだった。笑ってるくせに、全然楽しそうに見えない。それに気づいたとき、俺はこの男を信用しないと決めたのだ。
ピンポン、と鳴らされたチャイムの音に、獄寺は読んでいた雑誌から視線を上げた。時計の針は夕方五時を回っている。学校帰りに寄った本屋で今月発売の雑誌を買い、帰って制服も着替えないまま、速攻で読みふけっていたのだが、随分と集中していたようだ。スカートが皺になったかな、と少し後悔したが、再び鳴ったチャイムにそれは思考から追い出された。宅急便か、と考えたけれど、何か頼んだ記憶もなく、獄寺はインターフォンで相手をチェックした。現れた見慣れた顔に、不機嫌になりながらも、一応声は出す。
「……何の用だ」
返答があったことに相手・山本武は満面の笑みを見せて一言言った。
「入れて」
「断る」
即答して画面を切った。しかし、相手は納得しなかったのか、再びチャイムを鳴らす。それすらも無視したのだが、間髪入れずに鳴らされるチャイムに、獄寺は再び通話をせざるを得なかった。
「しつこい!! 警察呼んで欲しいのか」
「俺、何も悪いことしてないし。獄寺が入れてくれたら何の問題もないんだけど」
あっけらかんと言い切る山本に獄寺は肩を落とす。このままでは本当に入れるまでチャイムを鳴らし続けそうだ。一応中学一の有名人を警察に突き出すほど愚かではない。もちろん獄寺が尊敬している綱吉が悲しむというのが一番の理由だが。
「はぁ」
ため息をついて獄寺は入り口のオートロックを外す。そのまま今度は玄関の鍵を開けるべく、足を向けた。カチャリと鍵を開けたと同時に開かれた扉に、いささか驚いた様子で目を瞬かせた。獄寺の部屋は三階にある。階段かエレベータを使って上がるのだが、それでも少しは時間がかかるものだ。それを獄寺が玄関の鍵を開けるまでの僅かな時間で上がってきたのに、獄寺は眉を寄せる。
「何だよ、いきなり」
今までに何度も家に上げたことがある。それは綱吉が一緒だったり、そうでなかったりと様々だけれど、事前に連絡もなしに来ることは稀だった。
「うん。なあ獄寺」
いつも通りの光景なのに薄ら寒いものを感じて、獄寺は一歩下がった。
一歩下がったことにより、山本が玄関に足を踏み入れることが可能になった。獄寺の顔を見たまま、後ろ手で山本は扉を閉めた。ガチャリと音が鳴ったのは鍵をかけたからか。いつも閉めろ、というので、その光景も当たり前である。けれど獄寺はさらに山本から距離を取るように一歩下がった。
「だから、何のようだ。用がないなら帰れ」
俺は忙しい、と踵を返そうとした獄寺の腕を山本は掴んだ。
「なあ、獄寺。俺のモノになってよ」
ニッコリと笑った山本は、獄寺が意味を理解する前に、口を己のソレで塞いだ。