拍手連載1
1
『霊なんて見えてても関わらなければいないと同じ』
あの日以来関わらないとそう決めた
それをモットーに生きてきた
そしてこれからも生きていく
黒崎夏梨/15歳
髪の色/ブラック
瞳の色/ブラック
職業/高校生
ハズだった
2
「ここが空座町……」
少女はあたりを見回して呟く
『ごめんな』
誰かが詫びている
『背負わせちまった』
『そんなことはない』
誰かがそれに返した
誰だろう、知っている気がする
『でも『離れても、繋がっている』
『頼むな』
――一緒には行けないから
言葉の裏を理解して頷く
約束した、側にいると
時が来るまで
『またな』
そう彼は笑った
「夢?」
目が覚めて、夢を見ていたことを思い出した。
頭に手をやりその夢を思い出そうとしたが、どうしても思い出せない。
「何だったんだろう?」
忘れてはいけないような、知っている人が出てきた気がする。
何だったのだろう。
そうしてカーテンを開けて空を見上げた。
空には刀のような三日月が浮かんでいるだけで、再び寝床に戻る。
3
その町はどこにでもあるような
普通の町だった……
気の合う仲間たちとの日常が
このまま続くと……信じていた
「夏梨ちゃん、早くしないと遅刻しちゃうよ!!」
階下から双子の姉の声が聞こえてくる。
「わかってる!!」
大きな声を出して答えると、かばんを引っつかんで部屋を出た。
「やば、宿題忘れた」
寝坊の原因でもある課題を机の上においてきたのを思い出して、慌てて部屋に戻る。
机の上に置いてある英語の課題をかばんの中に入れて、ついでとばかりにもう一度今日の時間割を確かめた。
「一限は越知サンか、まぁ遅刻しても文句は言わないな」
これが数学の教師だったりしたら、煩いのだが。
「夏梨ちゃん!!」
「分かったってば!!」
再び階下から声が聞こえた。
これ以上ここにいると朝食を食べ損ねてしまう。
そんなのはごめんだ、と心の中で思って、急いで部屋をでた。
「おっはっよ〜ん かり…ぶほぉ」
「おはよう遊子」
「おはよう夏梨ちゃん」
朝っぱらから何が嬉しくて父親の制裁を受けなきゃならん。
腹にたつき直伝の蹴りを埋め込んで沈めてから、朝食の席につく。
「母さん、娘が反抗期だ〜」
馬鹿でかい母親の遺影に縋り付く父親に毎度のコトながら無視を決め込む。
「最悪な図」
けれども思わずぼそりと呟いてしまい、夏梨は嫌そうな顔をしてから味噌汁を口に運んだ。
「行ってきます、お母さん」
「行ってきます」
習慣になった母親の遺影に一言投げかけてから二人は家を出る。
少々遠いけれど、交通機関を使うほどではないから徒歩だ。
自転車は本当に遅刻しそうなときに、こっそりと。
「あっ、黒揚羽だ」
玄関を出たところで遊子が声をあげた。
指差すほうを見ると黒い蝶がひらひらと舞っている。
「時期がちょっと違くない?」
「そういえばそうだねぇ」
疑問を口にすると、賛同が返ってきて、二人で顔を見合わせた。
と、揚羽を追っていた夏梨が眉を寄せる。
「……遊子行くよ、遅刻しちゃう」
「えっ、ちょっと待ってよ夏梨ちゃん!!」
そのままいきなり踵を返し、夏梨は足早にその場を去る。
遊子も慌ててその後を追った。
「いきなり何なの? 夏梨ちゃんねぇ聞いてる?」
遊子が不満そうに声をあげて、夏梨の行動を咎める。
「何でもないよ」
そう返すが、遊子はまだ納得していない目で夏梨を見ている。
こういうところは姉だよなぁ、と思いながらも心配かけないように顔の筋肉を総動員した。
「本当に何でもないから」
顔に笑みを張り付かせると、遊子はあきらめたのかへらり、と笑い、
「変な夏梨ちゃん」
と夏梨の前を駆けていく。
そんな遊子を見て、夏梨は一度だけ視線を後ろに向けた。
黒い和服、左腰には資料でしか見たことのない鞘を下げている少女。
そして彼女は電信柱の上に立ち、町を見ていた。
あんなのは現代の日本に、否、世界にいるわけはない。
だからアレは見なかった、いなかった。
そう結論付けて自分を納得させる。
――知らなくて良いんだ
前を歩く姉が早くと手を振っている。
側には同じクラスの子がいて、一緒に立ち止まっていて。
――特別な力なんかいらない
彼女達に追いつこうと夏梨も走り出す。
――だから、どうか、
心配をかけないようにと、この六年間で身に着けた笑顔の仮面を貼り付けて。
――この平凡な日常を続けさせて
そう、夏梨は信じてもいない存在に、願わずにいられなかった。
4
「おはようたつき」
「おはよう、遅刻寸前じゃん。どうしたのさ」
教室について席につくと幼馴染のたつきが近寄ってきた。
「ちょっと寝過ごしてね」
そういうと、珍しいこともあるもんだ、と豪快に笑われる。
幼馴染のこういうところが夏梨は好きだった。
「笑うな、ってああ!!」
急にあることを思い出し、声をあげる。
「小島、悪い」
立ち上がって、窓際に溜まっていた男子の一人に手をあわす。
「借りたCD持ってくんの忘れた」
昨日持ってくると言ってそのままだった。
聞きながら課題をこなし、終わったらそのままベットへダイブし、忘れた。
おまけに今日は寝坊してしまう。
今日は厄日か。
「ああ、別にいつでもいいよ。珍しいね忘れるなんて」
言ったことは守る夏梨にしては珍しいと暗に言っているのだが、隣で浅野が爆笑しているのに腹がたち、蹴りをお見舞いしておいた。
そのとき担任が教室に入ってきたのだが、『骨折させると面倒だから、打撲程度にしておけよ』と言っていたことをここに記録しておきたい。
まったく楽天家の担任で助かる。
「でね、その時その人たちが、って聞いてる?夏梨ちゃん、たつきちゃん」
お昼時、夏梨はいつものように昼食をとっていた。
メンバーは遊子、幼馴染のたつき、それから遊子と同じクラスで、たつきと仲のいい織姫だ。
だいたいは話好きの織姫の話を聞いて遊子が返すのだが、今日は遊子が教師に呼ばれて席を外していて、三人だけだった。
「もう、一生懸命話してるのに酷いよ」
「聞いてる聞いてる」
織姫が頬を膨らますのだが、たつきは慣れたもので織姫をあしらう。
それが自分たち双子を見ているみたいで微笑ましい、と普段なら笑みを零すのだが、今日は違った。
「夏梨ちゃん?」
返答のない夏梨に織姫は首を傾げるが、夏梨はなんの反応も示さない。
「夏梨?」
たつきも目の前で手を振るが夏梨は視線を窓の外に向けたまま。
よく眉間に皺が寄るが、いつもよりそれが深い。
「夏梨!!」
苛立ったたつきが大きな声を出して、ようやく夏梨は弾かれたように気がついた。
「えっ、あっ、何?」
「何? じゃない。どうしたのさ、ボーっとして」
「……ああ、ごめん。なんでもない」
「なんでもないって感じがないんだけど」
たつきの言葉に夏梨は視線をさまよわせ、言葉を選ぶようにぽつぽつと零した。
「……今日さ、夢を見たんだ」
「夢?」
突然言われたことに二人は顔を見合わせる。
「うん。どんな夢か忘れちゃったんだけどね。なんだったんだろうって気になって」
「ふ〜ん」
要領を得ない話だが、とりあえずたつきが相槌を打つと、織姫も思い出したように声をあげた。
「そういやあたしも今日見たな、夢。夏梨ちゃんと同じで、どんな夢か忘れちゃったんだけどね」
あははと笑う織姫に、夏梨も顔を緩める。
二人に言ったことは本当だ、けれど夏梨はもう一つ、別のことを考えていた。
けれどそれを二人に言うべきものではないとも知っているのであえて言わずに沈黙を貫き通す。
『霊なんて見えてても関わらなければいないと同じ』
それが夏梨の決めた唯一のルールだったから。
5
「疲れた」
夕食後疲れて部屋に戻った夏梨は自分のベットに突っ伏した。
帰ってきて一回、夕食に降りていって一回、風呂に入る前に一回。
「あっ、下に携帯忘れてきた。見てねぇだろうなあのくそ親父」
携帯を取りにいって確実に一回。
朝もあわせて一日平均五回。父親からの無駄にうっとうしいスキンシップに夏梨はうんざりしていた。
構うから余計に悪化するのだが、構わないと構わないでよけいにうっとうしいことをするのだから最悪なのだ。
最近はどつきあいしている中でも平然と自分のするべきことをこなす遊子に尊敬さえ抱いてくる。
「あっそうだ、CD」
今日もって行くのを忘れてしまったため、忘れないうちにかばんに放り込んでしまわないといけない。
のろのろとした動作でコンポの電源を入れてCDを取り出す
直したCDをかばんに入れて今度は後ろ向きにベットへ倒れこんだ。
――疲れた
毎日変わることのない平凡な生活。
それがたまに変わってしまうことが恐ろしく感じる。
今日見た夢然り、見かけた蝶と少女然り、そして毎日見かけていたヒトだったものが消えること然り。
夏梨は自分の髪を掻いて思考を追い出す。
――見ていない、見えていない
そうして無意識に言い聞かせる。
今日はこのまま寝てしまおうか。
そう思った時だった。
視界の隅を横切る黒い影に気づく。
「……黒揚羽?」
窓を見ても開いてはいない。
そもそも開けた記憶がない。
何か変な感じがして夏梨はベットから起き上がる。
眉間に皺を寄せてひらひらと舞う黒揚羽をじっと見つめた。
そっと手を伸ばすと黒揚羽はまるで待っていたかのように、彼女の指先に止まる。
ゆっくりと羽を開閉する黒揚羽は何かを語りかけてくるようで夏梨は尋ねてみた。
「お前、あたしに何か用なのか?」
もちろん答えは返ってくるはずもなく、夏梨は自嘲する。
「そんなわけ…・・・」
「……このあたりか」
唐突に聞こえた声に驚き振り向くと一人の少女。
おそらく今朝見た少女。
漆黒の着物を纏い、腰には鞘。正面から見れば、柄もあるから、あれは確実に刀なのだろう。
肩よりも少し長く伸びた黒髪が少女の動きにあわせてふわりと揺れた。
「はぁ!?」
見知らぬ少女が(夏梨にしたら)ふざけた格好で自分の部屋にいることにも驚くが、壁から抜け出たことのほうが驚いて素っ頓狂な声をあげてしまった。
まぁ霊ならばありえるのだろうが、この家に霊など入ってきたことはない。
家までついてくる霊はたまにいるのだが、何故か家の中に入ってくる前に、逃げていってしまうからだ。
その声が聞こえたのか、少女がこちらを向き、視線がぶつかる。
「お主私が見えるのか?」
なんだか古風な喋り方をされて、夏梨は黙ってベットの中に潜り込んだ。
「見てない見てない聞こえてない聞こえてない」
ぶつぶつと自分に言い聞かせながら掛け布団を頭までかぶる。
「おい、貴様!! 見えておるのだろう!! その反応はなんだ!!」
「母さんどうしよう。変な幽霊に取り付かれちゃった」
布団の中から枕もとの母親の写真を引き寄せ呟く。
「変とはなんだ!! しかも私は幽霊なんかではない!! れっきとした死神だ!!」
「どうしよう母さん。自分を死神だと思ってるよ。しかも仮に死神だとしてあたしまだ死にたくないんだけど」
「ええい!! 話を聞かんか!! 死神は生きているものを殺すことなどせん!! というかこっちを向いて話をせんか!!」
がばり、とかぶっていた掛け布団を剥がされる。
その勢いでどさりとベットから転げ落ちてしまった。
「いった、何すんだよ!! この似非死神が!!」
「えっ、似非だと!! 私のこの格好はどう見ても死神だろうが!!」
「はぁ? それが死神? 世間一般に死神っていうのは黒いフードかぶってて大きな鎌もってる髑髏(たまに違うけど)であって、アンタみたいなのを死神なんて呼ばないんですけど」
たまたまあった漫画――浅野に借りたやつだ――を示して見せると自称死神はそれを手に取り何故か感激した。
「なんだこれは、見たことがないぞ」
「ちょっとそれ借り物だから持って行かないでよね。まぁ浅野だからいいけど」
漫画を手に感動している刀をもった着物をきた少女。
変な図。
はぁ、と夏梨はため息をついた。
「関わるつもりなんてなかったのに……」
うなだれた時に、
――ヴォォォォン
何か声が聞こえた。
犬の遠吠えみたいな、けれどそれとも違う地鳴りのような音。
「何、今の」
その呟きを聞きとがめたのか、少女が顔を上げた。
「あんた、今何か聞こえなかった?」
「いや、何も聞こえなかったが」
いつもならただの気のせいだと思う。
けれど今日は違和感を覚えた。
そうだ、これだけうるさく喋っていたのに家族が誰も見に来ない。
いつもなら大きな音がするだけで反応する父親も、心配性の姉も見に来ないのだ。
ゆっくりと立ち上がるとドアノブに手をかける。
開くと何か威圧的なものが夏梨を取り囲んだ。
「虚の気配だと!! そんなものは感じなかったぞ」
後ろにいた少女が驚きの声をあげる。
「遊子!! 親父!!」
「待て!!」
思わず夏梨は死神の制止も聞かずに駆け出す。
嫌な予感がした。
階下に下りた夏梨は部屋の惨状をみて呟く。
「だから関わるのは嫌だったんだ」
そこには変な化物がいて、
家族が血に濡れていた。
6
さがっていろ、と叫んだ少女が化物に向かっていったが跳ね飛ばされる。
あの体格差じゃそれも仕方がないだろうと思うけれど、今はそんなこと考える余裕なんてあるはずもなく、死神だという少女にどなりつけた。
「あんたアレを倒すために来たんだろう!! なんとかしろよ!!」
混乱するなかで状況を整理しそう結論付け、今、傷を負った少女が戦えるなんて無理だと分かっていても言ってしまう。
「なんとか、なんとか方法はないのかよ!!」
こんなところで失っていい命じゃないのだ。
父は普段はふざけているが、医者としては相当の実力があるってことを知っている。
遊子は母が亡くなったときから一人で家事をこなしてきたんだ。
何もしていない、母を奪ってしまった自分のほうがこんな目にあうべきなのに。
「あたしは何か出来ないのか!?」
「……方法がないわけではない」
必死さが伝わったのか、少女が夏梨を見て一言言った。
「あるのか!?」
「お前なら大丈夫だろう」
そういうと少女は刀を夏梨に向けた。
「何を?」
「私の死神の力の一部をお前に貸そう。死神になれるだけの霊力もある」
「大丈夫なのか?」
「私を信じろ」
その強い光に惹きつけられた。
「必要なのは覚悟だけだ」
――覚悟
一呼吸入れて目を据える。
「死神。あたしに力を貸してくれ」
「死神ではない、朽木ルキアだ」
死神の少女もといルキアは口角をあげて笑った。
「そうかい、あたしは黒崎夏梨だ」
ルキアの刀を持つ手に力が入る。
夏梨は目を閉じて心を決める。
――もう、失いたくない
光と風が場を制す。
現れた少女は死神と同じ黒い着物を身にまとい、死神とは違う刀を持っていた。
少女の名前は黒崎夏梨/15歳
髪の色/ブラック
瞳の色/ブラック
職業/高校生__
高校生兼死神
ーーーーーー
一護の役ドコロを誰にするかで悩んだ結果、
彼女に白羽の矢が立ちました
たつきでもOKだったのですが、一護との関係を悩んだので却下
すべての話にどこかしら加筆済みです
h20/3/13拍手文
h21/04/30サイトアップ
next