拍手連載2

2-1
「なぁ、頼むな」
「何度も言われなくても分かってるって」
「うん。でも」
「しつこいなそんなに俺たちが信用できない?」
「信用してるさ。信用してるし、信頼もしてる」
「でも、恐いんだ。ここに一人残るのが、お前たちに押し付けてしまうのが。全てを捨てさせたのは俺なのに」
「それ以上いうと怒るよ。僕たちは自分で選んで、自分の意思でここにいる。それを否定させるのは、許さない」
「……ごめん」
「僕たちも不安なんだ。記憶がなくなるのもそうだけど、それは仕方ないってあきらめられる。だってみんな同じだろ。
でも、君をおいていくことだけが、つらい。一人にさせることが。頼むから一人になるな」
「ごめん」
そのごめんが、何を指したのか、いまだに分からない。



「ごめん」
「聞き飽きた」
「だよな」
「そうだ。お前はここで待ってればいい」
「……待ってる」
ここに来ないと分かっていても、それしか希望はないから。






2-2
自分を死神だと名乗る少女と出会った次の日、家は家族の無事と引き換えにみごと半壊。
ただ、二人には記憶も負った傷さえ残っていなかったことが唯一安心したところだった。
部屋の瓦礫を片付けていると、後はこっちでやるから、と親父に追い出され、遊子と二時間遅れで学校の門をくぐる。
廊下で別れて、教室に入ったとたん、騒がしい日常に巻き込まれた。
「あれー。何重役出勤してんだよ!!」
浅野の馬鹿にしたような声にどこぞの親父を思い出し、思わず返すために持ってきた漫画を顔に投げつけてやる。
「家、大変だったんだって?」
撃沈した浅野をしらっ、と無視した小島は笑顔で尋ねる。
「そう。まあみんな無事だったからよかったけど」
あっ、これサンキュ、とCDを返し、自分の席へと座ると織姫のクラスに居たのかたつきが前の席に座った。
「やっぱり遊子が来たから来てると思ったんだ。織姫が心配してたよ」
「たつきは心配してくれたの?」
「あたし? あんたはそうそうやられないでしょう。まあ遊子は心配したけどね」
彼女らしい返答に笑う。
ふとたつきが思い出したように言葉を発す。
「そういや今日転校生が来たんだ」
「転校生?」
「そう、さっき教室出て行ったみたいなんだけど。あっ戻ってきた。朽木ー」
その声を向けたほうをみた夏梨は固まった。
どうやらたつきは夏梨に爆弾を放り投げたようだった。
一拍後、
「なんであんたが!!「あら!! はじめまして。あなたが黒崎さん?」
『あら』の部分を強調して夏梨の台詞を止め、はじめまして、で牽制する。
彼女・朽木ルキアは固まった俺には気にせず、笑顔だ。
握手を求めるように出した手には『さわいだら殺す』とか書いてある。
嫌だなぁ。やっぱり昨日関わらなけりゃよかった、と思ってもすでに後の祭り。






2-3
「朽木、メシ一緒に食う?」
昼休みにたつきが彼女を呼んだ。
「ええ、是非ご一緒させてください」
にっこりと笑うが、夏梨にとってその笑顔は変でしかない。
昨日の素の彼女を知っているからだ。
当たり前のようにその場に座り、当たり前のような笑顔を浮かべている。
苦々しく思いながらも黙って行きに買ってきたサンドイッチを食べた。
今日は作る暇がなかったのだが、否、遊子が作る暇がなかったの間違いだ。
「へぇ、家の事情なんだ」
「ええ。でも仕方ありません」
遊子と織姫は初対面のルキアとすぐに仲良くなる。
天然の二人だからか、あの違和感ありまくりのしゃべり方も気にしていない様子だ。
「朽木、ちょっといいか?」
「ふぇ、夏梨ちゃんどこいくの?」
遊子に不思議そうに聞かれて、ちょっとね、と曖昧に濁す。
もうこの状況に耐えられそうになかったのだ。
「よろしいですわよ」
少し失礼しますね、と優雅にお辞儀する姿に違和感はなかった。



「お前帰ったんじゃなかったのか」
「お前ではない。朽木ルキアだ」
屋上につくと雰囲気がガラリと変わった。
言葉遣いも昨日と同じ、乱雑でいて堅苦しい。
「はいはい。で、ルキアはなんでこんなところにいるんだ?」
「帰れないのだ」
「はぁ?」
意外な返事に思わず声が出た。
「尸魂界は死神しか帰れない。今の私は霊力がなく、霊が見えるだけで人間と変わらない」
「なんで?」
その質問に、ルキアはもったいぶったように一旦言葉を止める。
「……貴様が私の霊圧を喰って死神になったからだ!!」
「意味が分かんねえ。あたしは着物も着てねえし、刀もないだろ!!」
突っかかるような言い分に腹が立ってこっちも叫ぶ。
「死神になったのは、魂だ。肉体に入れば普段と変わらん」
そこでだ、とルキアは再びあたしに指を向ける。
「お前にはこれから私の力が戻るまでの間、死神としての仕事を手伝ってもらう!」
「何て言った?」
「死神の仕事を手伝ってもらうと言ったのだ。元はといえばお前の所為だろう。断る権利は……」
「断る」
皆まで言わずに返答した。
「ちょっと待て、昨日は」
「昨日は感謝してる。けどな、あれはウチの身内だったからだ」
そう、あれが家族や友人だったから。
自分はもう関わらない。そう決めたのだ。
「元はと言えば、死神のお前が気づかなかったからだろう? それなのにあたしの所為にするわけ?」
そういうと、ルキアはうっ、と息を詰まらせた。
「そういうわけで、あたしは協力しない。あと、あたしの周りに関わるな」
そう言って去ろうとした。
後ろではルキアがただ黙っている。少し言い過ぎたか、と思ったときだった。
「…そうか、ならば致し方ない」
キュ、という布ずれの音に振り返った時には、視界の端に黒い影。
よく見るとそれは黒い着物で、それを着ているのは自分。
どさっ、と言う音に足元を見れば、自分が倒れていた。
「んな!!」
「付いて来い」
そのままルキアは学校を飛び出して、自分の身体に戻ることも出来たのだけれど、なんだかそうすると、彼女があまりにも哀れに思えてとりあえず追いかけることにした。
「ちょっと待て!!」
日常には戻れないと感じながら。






2-4
「織姫!! その怪我、どうしたのさ!?」
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
たつきと夏梨の驚く声に、織姫は困ったように笑う。
「ちょっと車に当たっちゃって」
「「車ぁ!?」」
「でも大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない!!」
「そうだそうだ。撥ねた奴から慰謝料分捕らなくちゃ駄目だろ!!」
たつきの少しずれた言葉に回りは突っ込むことはしない。
たつきと夏梨のタッグは学年中に知らぬものは居ない。
「それもそうだけど、本当に大丈夫なのか?」
「たつきちゃんも夏梨ちゃんも、おおげさだよう。朝も遊子ちゃんにも心配されたし」
織姫は目の前で手を振る。
「心配するのは当たり前だ。むしろしないほうがおかしい!!」
何度も大丈夫か、と聞く二人に、織姫はへらりと笑った。
「うん。ありがとう」
「井上さん」
ここでずっと黙っていたルキアが声をかける。
「その足の傷は?」
言葉どおり足をみると、ソックスのあいだから打ち身。
「これ? これも多分事故のときに出来たと思う」
「思う?」
「実はあんまり良く覚えてなくて」
「そうですか、お大事に」
そのままルキアは再び黙り込んだ。



「織姫の家族?」
「そうだ」
帰り道、遊子が買い物によるから、と別れた後、夏梨にルキアが聞いてきて、目を瞬かせながら夏梨は答える。
「兄貴がいたって」
「いた?」
「ああ、三年くらい前かな。うちに交通事故の被害者として運ばれてきた。
うちでは対処しきれないからでかい病院に搬送してる途中で……」
亡くなった、と呟いた声はよく注意しなければ聞き取れなかった。
「そうか」
「それを聞いてどうする気だ? つーか、お前今どこに住んでんだ?」
「ん、まあ気にするな。ちなみに住んでいるところはお前の家だ」
しれっ、と答えられた場所に、ふ〜ん、と返し、その発言が脳に響くまで数秒。
「はあ!? ルキアお前今どこに住んでるって?」
「しつこいな。お前の家だといってるだろう。詳しく言うと押入れだな」
「……そういや最近遊子がワンピースなくなったって」
「借りている」
「お前馬鹿だろう!! んなことやっていいと思ってんのか?」
「仕方がなかろう。もう一つの場所は私的にもあまり居座りたくないのだから」
「そっち行けよ」
「飄々とした性格の見えん男のところだぞ」
「だからって、……はぁ」
突拍子のない言動に疲れる。
けれど、そのままにしておくことも出来ず。
「分かった。来い」
腕を掴んで着いていた家の玄関をくぐった。
「親父!!」
家と仕事場を繋ぐ扉を開け放ち、親父を呼んだ。
「どうした夏梨。お父さんが恋しくなったか?」
「んなわけあるか。こいつ朽木ルキアってんだけど、親の都合で転校してきたのはいいんだけど、突然親が海外転勤でアパート探さないと駄目らしくて、しばらく置いていいか?」
白々しい、けれど即興で考えたにしては上出来な言い訳を口にすると、親父は何も考えていないのか、
「いいぞ!! アパートなんて大変だろう。親御さんがいいならここで暮らしなさい。女の子が増えるのは大歓迎だ。母さんや、娘が増えたぞ」
なんて言って騒いでいる。
ルキアを見るとぽかんとしていて、その顔がひどく意外だったのか、笑いを誘った。



「えっ、ルキアちゃんここで暮らすの? わーい。客間使ってね」
遊子も特に違和感を感じることなくルキアを受け入れ、うきうきと掃除をしている。
「ありがとう」
にこりと笑ってあたしの部屋のベットに腰掛けていたルキアは遊子が出て行くと不思議そうな顔をした。
お前の家族はお前を含めて変だ、と呟く声が聞こえたが、あえて聞こえないふりをする。

―――ピリリリリ
そのとき電子音が鳴り響いた。
「何だ?」
眉を寄せたあたしにルキアは切羽詰った顔をし、叫ぶ。
「虚だ!!」
「場所は!?」
最近慣れてきたこの感覚に体が一瞬浮遊感を覚え、一拍後には視界に黒い着物を認める。
「こっちだ!!」
別の体に入ろうが、身体能力は変わらないらしく、ルキアが軽々と屋根の上に飛び乗った。
その後を着いていくが、その方向、そして感じる霊圧の場所に嫌な予感を覚える。
「……織姫の家」
「井上の? そうかやはり」
「どういうことだ!?」
「井上の足についていたあざ。あれはおそらく虚がつけたもの」
「なんでそんなこと黙ってた!!」
「確信がなかったからだ!! あそこだ!!」
織姫の家には織姫だけじゃなく幼馴染の姿もあった。
「たつき!! 織姫!!」
叫んで二人の体の前に飛び出す。
と倒れていたはずの織姫が、虚の影から現れた。
「どういうことだ? 織姫が二人?」
「それは魂だ!! 早くしないと取り返しがつかなくなるぞ!!」
そして目の前にいた織姫は襲い掛かろうとした虚を見て信じられないような声を出した。
「お兄ちゃん」
その言葉に夏梨は一瞬戸惑う。
お兄ちゃん、と織姫は確かに言った。
喧嘩したまま会えなくなった最愛の人。
目の前の織姫は悲しそうな嬉しそうな顔をする。
「お兄ちゃん、どうして?」
『お前が俺を忘れるからだ』
苦しそうな声とともに、悲しそうな声。
『一緒に来ておくれ』
「夏梨!!」
手にかけようとしたその一瞬前、ルキアの声で我に返った夏梨は割って入り虚の攻撃を刀で防ぐ。
「夏梨ちゃん?」
ようやく夏梨の存在に気がついたのか、織姫が驚いた声をだした。
「織姫は連れていかせない」
『織姫は俺が育てた。俺が連れて行っても誰も文句は言わせない。俺を忘れる織姫が悪いんだ』
「ふざけんな!! 自分が育てたから殺すって、虐待する母親と同じだ!!」
その言葉にびくりと虚が震える。確か織姫は両親から虐待を受けていた。それを指摘されたのだ。
『違う!! 俺はあんな奴と違う!!』
「一緒だ!! それに織姫がいつお前を忘れた!? いつも何かあったら「お兄ちゃんに報告しなきゃ」っていってる織姫が!! 生きてる人間はな、死んだ人間に心配させないために前を向いて生きるんだよ!!それをお前が否定するな!!」
「お兄ちゃん!!あたしはいつだってお兄ちゃんが大好きだよ!!」
夏梨の言葉に続いて織姫が声を上げた。
叫んだ織姫の声に抵抗していた虚の動きが止まる。
「大好きだよ。いつか好きな人ができて、でもその人はお兄ちゃんと比べることは出来ないよ。だっておにいちゃんがいなかったらあたし幸せになれなかったもん。お兄ちゃんがいたから幸せだったの。だから、心配しないで」
少し焦点がずれているが、それはそれで虚の心を打ったらしい。そのまま虚は消えていく。
『ごめん。ありがとう』
声は消えていく。儚い声は天に消えた。



「どういうことだ」
家に帰ってルキアに問いただすのは、さっきのこと。
「なんで虚が織姫の兄貴だった?」
「……虚とは元人間だ」
そうして私は一つの真実を知ることになる。
虚の正体を。





すべての話にどこかしら加筆済みです
h20/7/21拍手文
h21/04/30サイトアップ
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