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拍手連載3
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3-1
『それ、捨てんの?』
『えっ、そうだけど』
――死にたくない
『それ、探してたんだ。譲ってくんない?』
『まあ、ヤバイのないからいいと思うけど』
『サンキュ』
――助けて
『うん。だから助けに来た』
――えっ。
『ずっと聞こえてた。放っておけなくて。もう大丈夫だ』




ってことで行って来い
本気か? 俺は男だぞ
大丈夫だ。間違い犯せば殺すだけだし
おめっ、それって完璧な脅しじゃねえか
あはは。大丈夫だって。お前だから安心してまかせられるんだ
――いつか迎えにいくから
そう言われれば従うしかなくて、それと同時に誇らしくもあったんだ
でもお前絶対迎えになんかこないだろ?
どれだけお前と一緒にいたと思ってる?
俺はお前なんか待たないで帰ってくる
何があっても帰ってくるから
だから、泣かないでな。



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3-2
「チャド?」
今日は屋上でお昼しよー、と織姫が言うもんだから、屋上に出ると、水色たちとはち会った。
「うん。さっき会ったんだけどね、怪我してて、どうしたの?ってきいたら、鉄骨が降ってきたんだって」
「鉄骨!?」
「茶渡君大丈夫だったの?」
「織姫に比べたら丈夫だろうけどさ。で、その茶渡は?」
鉄骨が降ってきたというのにこういう反応をするのはどうかと思うが、とても心配しているという顔を誰もしていなかった。
お昼買いに行った、と水色が言うと、隣で啓吾が声を発する。
「黒崎はインコがなに食うか知ってるか?」
「インコ?」
そう、と見せてくれたのは小さな鳥かごを目の前にかざす。
「チャドが持ってきてさ。何食うのかな、て」
「可愛いー」
織姫と遊子が声を上げて鳥かごを囲む。
「ルキア」
その中のインコに違和感を感じ、そっとルキアに声をかけた。
「ああ。でも悪いものでもないからな。今夜やるのが一番いいだろう」
頷きとともに返ってきた言葉に頷くと、そのまま弁当箱の箱を開けた。


「ただいまー」
「知るか!! 院長にクロサキからの要請だって伝えろ!!」
帰ると家中に響く声と共に電話が切れる音。
覗き込んだ診察室には血のにおい。
思わず眉をひそめかけたところに見覚えのあるアロハシャツを認めた。
「チャド!?」
「夏梨の友達か!? なら自宅のほうへ連れて行ってやれ」
連れて行った自宅のソファに座らせると、親父が救急道具を持ってきた。
背中は血でべっとりで、それを見た瞬間、旋律が体を突き抜けた。
重症患者をでかい病院に収容すると、チャドをベットへ寝かせ、自室に戻る。
そこにはルキアがいて、目を見ただけで、分かったように頷いた。
「あのインコからではない。だが、虚の気配は確かにした。茶渡は虚に襲われたのだろう」

次の日、チャドはうちの病院から姿を消した。



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3-3
「おはよう黒崎」
「チャド見てねえ!!」
あいさつもせずに浅野の胸倉を掴みあげる。
「見てないよ。そういや今日は遅いね。どうかした?」
話せない浅野に代わり、小島が声をかけた。
相変わらず浅野の状況は無視しているのは気にしない。
「あいつ怪我してるのにどっか行きやがった。見たら、戻れってしかってくれ!!」
叫んで学校を飛び出す。
昨日のインコを思い出して、嫌な予感に眉を寄せる。
「チクショウ、どこいった」
「こっちにはいなかったぞ!!」
ルキアが塀の上を走って報告する。
どこ行ったんだ、探しても探しても見つからない。

――を辿れ

「えっ」
何か聞こえて思わず立ち止まる。
「どうした?」
ルキアが気づいて声を上げた。
「今何か、声が聞こえた」
「声? 私には聞こえなかったが」
訝しげにするルキアはあたりを見回す。
グラリと視界が暗転する。

――霊絡を辿れ。力を貸すから

『霊絡』
次の瞬間見たものは無数の霊圧の帯。
その中の一本を掴んだとき、脳内に一つの光景が流れた。
ああ、そうか。可哀想に。お前はただひたすら助けたかったんだな。
視界が開けるととっさに走る。
一本の帯をただただ追う。
ルキアが何か叫んでいたがそれが気にならないほど追いかけた。
この先にチャドがいる。


「チャド!! 見つけた」
見つけた巨体はそのまま逃走。けれどその前にさらに巨大な影。
「夏梨、あれが茶渡を襲った虚だ!!」
霊圧にルキアが叫ぶ。
「チャド離れろ!!」
ルキアに魂魄を抜かれ、そのまま刀で切りかかる。
『うまそうな魂魄だ』
ゾワリと肌が泡立つような声に思わず離れ、二人と自身の身体から離れる。
『死神か。わざわざ餌になりにくるとはな』
「お前が子供の母親を殺したのか」
「母親?」
後ろでルキアが言葉をこぼす。
「母親を殺して、子供を唆し、餌を釣る。それがお前のやり方か」
『どこで知ったか知らないが、お前はこれから死ぬんだ。俺に喰われてな』
否定をしないということはさっきの映像は真実。
母親を殺して、生き返らせるのと引き換えに、ゲームを持ちかける。
叶わない願いに子供は必死ですがった。
「お前のような奴があたしは一番嫌いなんだ!!」
虚が何かを吐き出した。音と共にそれが爆発する。
けれどそれにかまうことなく突っ込んだ。
幼い子供を餌にして、家族を巻き込んで、それを平気で行うそれが腹立たしい。
絶対に許さない。
そのあとは何も覚えていない。ただ、気づいたら地獄の門とやらに虚は取り込まれた後で。
インコに憑いた子供は自らの体に還ることなく、天へ上る。
ごめんな。呟いた言葉は届いただろうか。



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3-4
「はぁ? 擬魂丸?」
また変なもの持って来たよ、とは心の中だけで思っておく。
渡された小さな玉を太陽に透かしてみた。
「それで空になったお前の体は安全だ」
えらそうにふんぞり返るルキアにそれを放り投げ頭の上で手を組んだ。
「何をする!!」
「あたしの体はあたしのもんだ。何かに任せる気はない」
「だが、緊急の時はどうするのだ」
「そんときはそんときだ」
ぐちぐち言い続けるルキアを無視して空を見上げた。
チャドのインコ事件から数日、気になっていたことがあった。
「あの時――」
「ん? どうかしたのか」
つぶやいた声を聞きとがめたルキアが声をかけてくる。
「いや、なんでもない」
そういいながらも考える。あのとき聞こえたあの言葉。
『霊絡を辿れ。』そして『力を貸すから』
そのあとに力が湧き上がったことは覚えている。あれから何度か自分で挑戦してみた。
霊絡を見ることはできるようになったけれど、インコのようなわずかなものを探し出すことはできなかった。きっと声の主が力を貸してくれたのだろう。
けれど、あれは誰で、何故あたしに声をかけてきたのか。
それがずっと気にかかっていた。
「夏梨!!」
―――ピリリリリ
唐突に感じた例圧と探査機独特の機械音。
場所は、近い
地を蹴って駆け出した。


「最近思うんだけどさ」
帰宅後ベットに体を横たえて雑誌を手に取った。さっき考えていたことと別のことを口にする。
「体に戻ったときの動き難さって」
「いわゆる死後硬直だ」
「やっぱりかよ!」
ベットからガバリと体を起こし声を荒げる。
嫌だー。それって下手するとそのままあの世行きじゃ……。
「それを防ぐためにも擬魂丸は必要なのだ」
と胸を張ってえらそうにルキアは告げる。
「嘘だろ」
「何故分かった!!」
即答してやると、言い訳を考えようと思わなかったのか、ルキアは驚く。素直というかなんというか。
「かまかけただけなんだけど、嘘だったんだ」
口の端を引き上げて手首の運動をする。こういうとき同じ女でよかったと思いにっこりと笑った。
「貴様、嘘をつくのはいけないことなんだぞ!!」
「ついたお前が言うことか!!」
部屋で枕や遊子から贈られたぬいぐるみが飛び交う。
「いい加減に擬魂丸を飲んでみろ!」
「嫌だって言ってんだろ」
「私がいなくても死神になれるんだぞ!!」
「うっ」
それはとても魅力的だ。なにしろ一々彼女に魂を抜いてもらうというのは、彼女が傍にいないと出来ないわけで、いないときは自らの力のなさに歯噛みしたくなるのだ。
「それ!!」
一瞬の隙をついてルキアが口に擬魂丸を放り込もうとする。
慌てて傍にあったぬいぐるみでカバーすると、ルキアが持っていた擬魂丸はちょうどライオンの形をしたぬいぐるみの口へと吸い込まれた。
「あ」
「えっ?」
そう、吸い込まれたのだ。
その瞬間ぬいぐるみの腕が動き……。
「わお、これはこれは麗しきお嬢さん。お名前は」
「はあ?」
いきなり話し始めて、しかもこれはナンパしているようにもみえて、おもわず素っ頓狂な声をだしてしまったのは一種の不可抗力だろう。
「擬魂丸ってこんなこというの?」
「そんなはずはない。そもそも生き物意外に入れて動くなんて私は思いもしなかった」
ルキアも同じように驚いた顔をしている。
「どうやったら出るんだ? よっ」
ルキアがぬいぐるみの腹を思い切り殴るとぶへっ、と口から擬魂丸が出てきた。
「不良品かもしれんな。明日浦原のところへ持って行こう」
「浦原?」
始めて聞いた名前に首を傾げるとルキアは頷く。
「現世で唯一死神相手に商売している強欲商人だ」
「ふーん」
何気なく返事をして、ルキアの手の中にある擬魂丸を眺めやった。
「不良品、ね」



------ 3-5
――助けて
『これ、どうするんだ?』
『どれ? ああこれはもう処分だな』
――嫌だ
『じゃあこれと一緒に頼むわ』
『了解』
――俺はモノじゃない
『それ、捨てんの?』
『えっ、そうだけど』
――誰か助けて!!


ガバリと布団の上に身を起こす。
「夢……なんだろうな。なんだったんだ?」
夢というか、暗闇で会話がずっと聞こえてるだけだったのだけれど。まるで死刑台に進むような気持ちだった。
「今、何時だ?」
机の上の時計を引き寄せる。と、そこに小さな丸い玉が転がっていた。
「擬魂丸?なんでここに」
これはルキアが自室に持って行ったはずだ。忘れていったのか?そこまで考えてふと思い当たったことがあった。
「まさかさっきの夢」
ぬいぐるみから発せられた声とさっきの夢の声はとてもよく似ていて。
「お前が見せたのか?お前の記憶か?」
そっと取り寄せて月に照らした。
月は細い三日月で、まるで日本刀のようだった。


翌日ルキアに無理やりついていった夏梨は、彼女の言うところの強欲商人に会った。
「はーじめまして。浦原と申します」
何だか形容しがたい格好の男が出てきて、思わず眉を寄せる。
胡散臭そうな男はルキアが持ってきた擬魂丸を太陽に透かすとため息のように言葉を零した。
「やっぱり持ってきましたか」
「やはり、とは不良品と知ってたのか?」
ルキアが呆れたような声を出す。
「いやー。不良品ではないんですが、ちょっと問題がありましてね。普通に使う分にはまったくもって大丈夫なんですが。今回朽木さんの手に渡った理由はただ単にこちらの手違いだったんですが」
「それならいいんだが、問題とはなんだ?」
今度は怪訝そうな顔をしてルキアが浦原の言葉に耳を傾ける。
「これは擬魂丸とは少し違いまして。戦闘用に強化された改造魂魄という擬魂丸です」
「改造魂魄?」
「ええ。偽骸だけでなく死体に入れて戦闘させようという志の元開発研究されていたものです。あまりにも非人道的だということで開発は禁止。作られたプロトタイプは処分された……はずだったんですがね。こんなところに混ざってたみたいで」
「そうだったのか。では代わりのものを渡してくれるな」
もちろんですよ、と浦原は奥の店員を呼ぶ。
「それはどうなるんだ」
何気なく聞くと浦原はこともなげに処分するんですよ、と答えた。
「処分……」
ああ。今朝見た夢はやっぱりこいつの記憶だったのか。と素直にそう思って。気づけば浦原に手を差し出していた。
「それ、あたしが預る」
「はい?」
目をぱちくりとして浦原は驚く。そして諭すように言葉をつづった。
「アナタさっきの言葉聞いてましたか? 禁止されたモノです。使用を禁止されているんですよ。見つかればどうなるか」
「そうだぞ夏梨」
浦原だけでなく、ルキアも加勢する。
「処分するなんてあっさり言える大人にはなりたくないね」
遠まわしの嫌味に気づいたのか、浦原は眉を寄せる。少女と男のしばしの睨み合い。
先に折れたのは浦原で。
「分かりました。お得意様ですからね。今回だけですよ」
そういって擬魂丸を手渡してくれた。


昨日入れたぬいぐるみに擬魂丸を押し込むと、それはゆっくりと動き出して。
「変な奴」
開口一番そう言われた。
「そうかもな。でも放っておけなかったんだ」
そう笑うと、ぬいぐるみに入った擬魂丸が小さな声で呟いた。
ありがとう、と。


h20/3/13拍手文
h22/1/30転記
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