拍手1
2

「お酒のどこがおいしいんですか?」

目の前で酒を酌み交わす二人を見ながら彼女は聞いた
二人は怪訝そうに眉を寄せる

「どこが、ってうめぇじゃねぇか」

一人がそう問い返すと、もう一人も頷く
「どこがです? 苦いし、着物に匂いがつくし、第一酔っ払うあなたの相手をするのは疲れるんですよ。一護」
問い返した人物に険しい顔を向けると、彼、一護はばつが悪そうにそっぽを向く
「酒癖が悪いのか?」

もう一人が意外そうに口を開く

「悪くねぇよ。ただ口数が多くなるだけで」
「それが酒癖が悪いというのです」

間発入れずに発された非難と彼女に睨まれて一護は頭をがしがしと掻き彼女へと視線を移す

「祝言挙げるんだから俺の心配をするより、こいつの心配しろよ。なあ白哉」

そういって親指でもう一人の男、白哉を指し示す

「何を言っているんですか。彼はあなたみたいに自分をなくす呑み方なんかしません。というより私も気をつけます。でも、あなたはこれから……」

視線を下げて言いよどんだ
――一人になるじゃないですか
そういいたいのに言えない
自分が一護を置いていくのだから
白哉と行くのを決めたのは自分
一護をおいていくのを決めたのは自分

「心配くらいさせてください」

白哉と共に行くことになって、一つのことが決められた
『ここで知り合った人々と二度と会うことは許さない』
迷っていた自分の背を押したのは他でもない一護で、彼は心配するな、と笑った
だから決めた
一護と会うことがなくなっても、孤独な白哉を見捨てることが出来なかった
悔やんではいる、でも
後悔はしていない
くしゃりと頭を撫でられた
顔を上げると二人が笑っている

「そんな顔すんなよ。もうすぐ祝言あげんだろ。今が幸せな時じゃねぇか」
「こやつに会うくらい簡単だ。会わせてやる」

大好きで、大切な二人がそう言った
だから私は幸せになる
二人のために、
でも、私はまた置いていってしまう
それを忘れてはいけない

「そうだ」

いきなり手を叩いて一護はにっ、と笑った

「お前が飲める酒、探してやる。そんときにまた集まろうぜ」
「私にも、ですか?」
「そう、こいつじゃなくて俺が探してやる。そんときにゃこいつも一人前になってるだろ。会うことくらいわけないさ」

だから、と彼は続けた

「そんときに、お前と俺とこいつと、それからルキア」

その言葉に残りの二人ははっ、とした

「酒を探すためにいろいろ回る。一緒に探す。絶対見つける。その間に子供一匹くらいつくっとけ」

茶化す言い方だけれど、その目は真剣

「期限を設けよう」

静かにもう白哉が言った

「お前に任せておけばいつになるかわからん」
「うわ、ひでー」
「百年では短かすぎるか?」

あくまで単々と語る白哉に、一護は握りこぶしを作った

「殴られたいか?」
「……では、六十年」

嘆息しながら言った

「なんで?」
「長くもなく、短くもない」

なんて中途半端と思わないではなかったが仕方がない

「じゃぁ六十年後」
「またここで」
「この時間に」

二人が酒の入ったお猪口を掲げた
それに彼女も便乗する

「ええ、また」

カチンッ、と音が鳴る
満月が部屋を照らしていた


拍手1−3