一番隊隊長・山本元柳斎重國はいつものように隊長室で仕事をしていた
いつも傍にいる副隊長・雀部長次郎は副隊長会議で外している
筆に墨をつけたところでぴたりと動きがとまった
「めずらしいのぅ。おぬしが来るときは面倒ごとが起こるんじゃが」
そう言って、何事もなかったように仕事を再開する
「して、何用じゃ?」
「……何かが起こる」
どこからか声が返って来た
「なにかとは?」
筆を滑らせつつもう一度問いかける
「分からない。だが、前よりも大きなことが起こる」
「おぬしも動くか?」
細い瞳に光が宿った
何もない空間を見やる
まるで、そこに誰かがいるように
「出来れば動きたくはないさ」
抑揚のない声が哂いを含んだ
「用心だけはしておこう」
その声音には反応せず、事務的に返す
そのまま気配は消えた
残ったのは山本だけ
山本は立ち上がると外に出て空を仰ぐ
彼がここを訪れるとき、決まってここでは何かが起こる
否、彼が何かに気づき、それを知らせてくれるのだが、一度も防げたことはない
全てが終わって、防げなかったことに後悔をする
だがそれも表面的なことでしかなく、真実を知る術はない
彼らはどうなったのか、彼は本当に追放されたのか
そして今度は、何だ? 何が起こる?
「何もなければいいが」
呟いた声を聞くものはなかった
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――――――
選択式小説D
総隊長と彼の接触
歯車が加速を始める
h20/2/26