「あれ、一護?」
そう呼んだのは十三番隊隊長・浮竹十四郎で、呼ばれた一護はへらりと笑った。
「浮竹隊長はお一人ですか?」
「いや、京楽が先に来ていてね。部屋を取っているらしいから、そこに行くのさ。一緒にどうだい?」
「いいですねぇ、と言いたいんですが、一介の隊員が隊長方と一緒に呑むなんて恐れ多くてできませんよ」
と白い羽織に視線をくれた。
「……分かった。とりあえず行こうか」
嘆息した返答を聞くと、一護は先ほどまで呑んでいた酒をあおり、素直に立ち上がる。
「浮竹遅かったじゃないの。ってあれぇ一護ちゃんじゃないの。久しぶりだね」
十四郎のあとに顔をだした一護を見て、春水は嬉々とした声を上げた。
「誰です?」
そう言ったのは九番隊副隊長・檜佐木修兵。
他にも三、五、十、の副隊長が揃っていた。
「一番隊の一護ちゃん。僕らの先輩なんだ」
その台詞にみなが驚く。
「隊長方の先輩って……」
「うそぉ」
女性陣が目を丸くする。
「そんな大げさなことじゃありませんよ」
一護は軽く頭をさげると、目を細めて微笑んだ。
「あ、浮竹」
春水は浮竹に声をかけると、手を拝むように立てる。
「ここに来る途中で阿散井君たちと会ってね、昇進祝いってことで呼んだんだ」
知らせなくて悪かった、というニュアンスの台詞に十四郎は笑う。
「別にかまわないさ。呑みに誘われなけりゃ、一護にも会えなかったしね」
「隊長になってからだっけ? めったに会わなくなったもんね。誘っても呑みに来ないし」
座った十四郎と一護に酒をそそぐ。
そそがれた酒を眺めて一護は苦笑する。
「平隊員と隊長じゃ、立場が違いすぎますから。ところで、阿散井副隊長は?」
そこで十四郎も恋次がいないことに気がついた。
「そういえば、」
「もう戻ってくると……、ああ、戻ってきた。遅いわよ、恋次」
乱菊は怒ったように頬を膨らます。
「すみません。あれ、一護じゃねえか」
「お久しぶりです、阿散井副隊長。この度は昇進おめでとうございます」
きちんと頭を下げる一護に対し、恋次は居心地が悪そうにしている。
同じような派手な容姿に同じような年齢の一護に敬語を使われていると、むず痒いのだ。
何度もやめろと言っているのに、聞く様子はまったくない。
「ああ、さんきゅ」
「阿散井君は一護と知り合いなのか?」
十四郎が意外そうに聞いてくる。
答えたのは一護だった。
「十一番隊によく書類を持っていっていましたので、席官になられたころから存じております」
「ふ〜ん。ところでさ、いい加減その喋りかた、やめてくれないかなあ。体中が痒くなっちゃう」
「上官にきちんとした言葉を使うのは当たり前のことです。隊長としていらっしゃる限り、変わることはありません」
にっこり笑ったままの一護に、隊長二人はため息をつく。
「その言い方ですと、昔は違ったんですか?」
イヅルの言葉に二人はうなづいた。
「どっちかっていうと完璧に十一番隊だったよね」
「ボロクソにいわれててな。あのころから上官には敬語だったけど、まさか自分たちが席官にあがって敬語を使われるとは思っても見なかったな」
そのまま話が進むと思われたが、春水の限界のほうが早かった。
「あー、もういいや。浮竹!!」
「分かった分かった」
叫ぶと隊長二人が纏っていた羽織を脱ぎ、平隊員と同じ死覇装姿となる。
と、一護が大きく息をついた。
「お前らいい加減慣れろよ。平隊員が隊長にため口なんざ対外的に悪いだろうが」
その言葉遣いは間違っても丁寧と言えるようなものではない。
副隊長たちは慌てるが、隊長二人の満足そうなのをみて、何もいえなくなった。
「でもさ、一護ちゃんに敬語使われるとやっぱり気持ち悪いんだよね」
「春水、『ちゃん』づけすんなって言ったよな。何度言えばわかんだ?」
「え〜。いいじゃない。今更だよ。隊長になったころからだったかな。避けてない?」
「そう、俺もそう思ってた。避けてるだろう?」
酒の追加、と注文をさせながら、詰め寄る。
「避けてねえよ」
「だって書類も持ってこなくなったじゃないか」
「十一番隊とか、技術開発局にまわされんだよ。見た目でな」
見た目というところを強調して酒をあおる。
酒の呑み方もさっきとは変わっている。
「そういえば、先輩って仰いましたけど、」
と会話に参加してきた桃に、回りの副隊長陣は尊敬のまなざしを送る。
「ええ、平隊員として入ってきたときに、飲み屋で一緒になったのが始まりです」
「そんなんだっけ? もうほとんど忘れちゃってるよ」
「一護は結構厳しかったしな」
「じゃあ、死神歴は隊長たちより、」
今度は乱菊
「一応長いですよ」
「すごっ」
「すごくなんてないですよ。ずっと平隊員ですし、仲間が死んで、一人生き残ったこともあります」
そして眉を寄せる。
「俺は生きることに執着しているんです。いや、死神であることに、かな」
それってどういう、誰かがつぶやく。けれど一護はただ笑うだけ。
「席官にならないの?」
ふとイヅルがそんなことをいう。それに修兵も便乗する。
「そうだよな。そんだけ死神ながいんならなってもおかしくねえし」
「無理ですよ。昇進試験受かりませんし」
苦笑する一護に春水は食い下がる。
「山じいが薦めることないの?」
総隊長が認めれば、という十四郎に一護は視線を向ける。
「規則は規則だと教えたろ」
その眼光は二人の隊長を黙らせた。
「……前から聞きたかったんだけど、一護ちゃんにとって規則って何?」
「守らねばならないものであり、守るべきもの」
即答される返事に、けどな、と付け足される。
その顔はとても優しく、
「優先順位はあるぞ。死神の規則を守るのは、その時点で優先順位が一番高いからだ」
年齢特有の無邪気さと、いたずら心が表れていて、
「今の優先順位は、昔お前らとした約束のほうが高い」
ほっとした。
「だからお前らとこうして呑んでるってわけ」
そう、まだ俺の中の優先順位は変わっていない。
next
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選択小説F
いつも思うけど登場人物多すぎ
おかげで会話がまわらない
なくすのももったいなくて、そのまま
h20/6/3