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きな臭い、と一護が感じ始めたのは現世で夏に入る前くらいだった。
各隊の隊長が集まる隊首会が行われた日。
普段なら避ける浮竹、京楽が通りそうな路をわざと選んで一護は歩いていた。
「一護ちゃんだー」
予想通り京楽が目ざとく見つけて声をかける。
隣には浮竹もいた。こちらを見て笑みを零した。
嫌な事があったり、自分でどうしようもないときには浮竹は一護に何かしら話をしに来ていたものだ。
肝心なことは何も言わないで、ただ一護と話をする。それだけで大分楽になるのだと言っていた。
いつしか一護の顔を見るだけでほっとすると言っていたのは嘘ではないようで、今回もそんな顔をして浮竹は笑う。
「一護」
一応決め事と、会釈をしてそのまま踵を返そうとするが、それを京楽に阻まれる。
逃げる人ほど人は追いかけたくなるのだそうだ。
これも情報を得るがため、と一護は内心で詫びた。
「お前らな、この間話したばっかだろ」
「まあまあ、ちょっとこの機会に一護ちゃんの壁ぶち壊してみようかと」
「いつ会えなくなるか分からんからな」
浮竹の使っている離れに三人はいた。もちろん隊長二人の羽織は脇に置いてある。
皮肉を込めた浮竹の言葉に一護は苦虫を噛み潰した顔をした。
「たく。で、んな顔して何あった」
京楽は軽そうに見えて決して信念をまげない。それは一護と同じだから一護は京楽が口を開くとは思っていない。
やはり、浮竹が口を開いた。
「ウチの隊の、朽木ルキアを知っているか?」
その言葉に一護は眉を寄せる。
「知ってる。六番隊隊長の義妹だろ」
確か行方不明らしいな、と一護が言えば、浮竹は目を伏せた。
どこにいて、どうしているか一護は知っている。
予想の範囲だが、それしか考えられないからだ。
けれど、その先はまだ知らない。
「現世で見つかった」
「どんな処罰を下したんだ?」
過程をすっ飛ばして結論を急いだ。
「一護ちゃんらしくないね。結論を急ぐなんて。むしろこんな話を聞いてくるのも珍しい」
京楽の観察眼は嫌いだと一護は思う。本当は浮竹一人のときを狙いたかったけれど、そうはいかない。
浮竹だと一護が帰ろうとするのを引き止めないからだ。
京楽の視線を受け止めながら一護はただ京楽を見返す。
「何年ここにいると思ってんだ。自分に火の粉が降りかかりそうなものとそうでないものの区別ぐらいつく」
精一杯の反論で、それを返されれば切り返す自信はない。が、京楽は納得してくれたようだった。
「ま、一護ちゃんがそういうなら、そういうことにしておきますか」
「……四十六室が指示を出したんだろ。何て言ってきた?」
「朽木隊長と阿散井君が迎えに。人への死神の力の譲渡は重い罪として、裁かれる」
それを聞いて、一護は目を閉じた。
「この世界は壊れるかも知れないな」
ぽつりといった言葉に隊長二人は首を傾げた。
「一護」
「一護ちゃん」
何かを聞こうとした矢先に一護の電子零機が鳴る。
「ごめん、もう行かねえと」
もともとタイミングよくなるように細工をしていたから、急ぐ必要はない。
ただ、情報を得てから二人と一緒に居るのが嫌だっただけだ。
一護はそのまま離れを離れた。


――――――
選択L

h21/6/1
い、一年振りの更新って……。
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