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「や、山本総隊長!!」
「なんじゃやかましい」
隊首会の最中、慌てた声が響き渡った。
礼を取ることさえ忘れた隊員は、途方にくれたように山本の前で立ち止まった。
「更木隊長が、倒されたと連絡が」
更木が、と山本は自らの杖で床を叩かねばならないほどざわついた室内を一瞥した。
「何があった」
「そ、それ、が」
言いにくそうに隊員が当たりを見渡し、悔しそうに一言だけ零す。
「一護が、旅禍に組したと」
一護。その名前に心当たりのあるものは数名。
見た目のわりに勤勉で、命令を忠実にこなす死神の名前だった。
「まさか、一護が!!」
「そんなこと、一護ちゃんに限って」
すぐさま旧知の仲である八番、十三番隊長が声を上げる。
けれども詰め寄られた隊員は、首を振った。
「我らも確かめました。彼は一番隊の誇る隊員です。ですが、何度確かめてもオレンジ色の髪の少年で。死神でオレンジの色を伴った者など、ただ一人です」
まさか、と再び浮竹が呟いた。
あの一護が、誰よりも決め事に厳しかった一護が、裏切るなど信じられることではなかった。
「優先順位、か」
「京楽」
笠を引き、顔を隠した京楽が噛み締めるようにゆっくりと思いを口にする。
「前、阿散井君たちと呑んだ時言ってたよね。『死神の規則を守るのは、その時点で優先順位が一番高いからだ』って」
「その、優先順位の順番が変わった、ってことっスか」
阿散井の言葉に京楽は頷く。
そうでなければ筋は通らない。
「一護の優先順位が旅禍を助けることだって!? そんな」
そんなこと、と浮竹は首を振った。
「彼がどう行動したかは問題ではないよ」
それまで黙っていた藍染が言葉を紡いだ。
山本に向き直り、真摯な眼差しをそそぐ。
「彼への対応は、どうなさるおつもりですか」
「無論」
山本はその視線を受け止め言い放つ。
「裏切り者として対応せよ」




教え子二人を残して、隊長達が各々の持ち場へ戻った後、山本は椅子に深く座りなおした。
「山じい」
「先生、一護は本当に裏切るなど」
二人の詰め寄りに、山本は息をついた。
「落ち着け。おぬしらが思っておるほど、儂はアレをただの隊員だと思っておらん」
その言葉に二人は目を瞬かせた。
山本が平隊員に対して目をかけるような言葉など初めてだったからだ。
「古くからアレと交流があるのは、お主たちだけではない。儂もまた、アレとは古くからの付き合いじゃ」
そう、昔からな、と山本は目を閉じた。
「アレが考えることは儂にも分からん。じゃが、強い信念を持っておる。一度心を許したお主らを裏切ることはあるまいよ」
それでも心配そうな教え子二人に、山本は嘆息した。
「心配するな儂の考えも見通して、行動しておるよ」
山本がそこまでいうのも珍しいが、そこまで言わせる一護に浮竹と京楽は顔を見合わせた。
「先生がそこまで仰るなら」
「信じるしかないねぇ」
そう言って出て行く二人を見送った山本は、深く息をつく。
「お主が望まぬ結末だけは避けたいのぉ。なぁ、黒崎」




――――――
選択R

h22/3/6
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