「あれ、あんた」
その声にオレンジの髪が揺れた。
こちらに振り向くと、ブラウンの瞳が細められる。
「こんばんわ、阿散井副隊長」
見た目とは違い礼儀正しい挨拶に、調子を崩されながらも席に着く。
一護とはちょうど隣の席だ。
「お前、一人?」
「いえ、後でもう一人来ます。仕事が立て込んでいるようなんですよ」
誰もいない椅子を見てそう尋ねると、一護は苦笑したように手を振ふった。
「何、阿散井の知り合い?」
「にしては礼儀正しいね」
後ろから肩を組んできたのは先輩である檜佐木修兵で、向かいでは同期の吉良イヅルが首を傾げている。
「イヅル、お前それかなりひどくねぇか?」
胡乱な目を向けると、クスリと一護が笑う。
「一番隊所属、一護と申します。お見知りおきを」
ペコリと頭を下げた。
「おう、よろしく。恋次みたく派手な頭してんのに、一番隊なんざすげえな。お前も見習ったほうがよくねぇ」
指で恋次をつつきながら、運ばれてきた酒に手をつける。
「先輩、実はですね。一護って、」
と、今日知った事実、つまり朽木隊長の先輩だったことを話してみる。
修兵は馬鹿にしたように酒をあおる。
「はっ、またまた。そんな嘘言ったって引っ掛かんねぇし」
「嘘だって思ってるんすか?」
「簡単には信じられない話だよ。朽木隊長より年上には見えない」
一向に信じない二人に、一護に振ろうとした矢先、彼が、こっち、と手を上げたのが見えた。
連れが来たのかと、首をめぐらせた瞬間、思いがけない人物に固まる。
「阿近さん!?」
固まった恋次を見て、視線の先を確かめた修兵が素っ頓狂な声を上げた。
そこには泣く子も黙る技術開発局局員、鬼こと阿近が立っていた。
「あ、修兵じゃねぇか」
気づいた阿近が修兵を見て、眉を寄せる。そのまま視線を一護に向けて、
「場所変えろ。酒癖の悪い奴らと酒が呑めるか」
と言い放った。
「それひどく「嫌だね。今から場所変えてもどこもいっぱいじゃねえか。空いてるとこがあっても高いとこばっかだし、何、あんた奢ってくれんの?」
修兵の言葉を遮って放たれた言葉は、先ほどの丁寧さなど微塵も残っていないほどの乱雑でナメたような言葉遣い。
顔を引きつらせたのは、三人の中で阿近と付き合いの長い修兵で、しかし、阿近は気にした様子もなく一護と視線を合わせている
「ちっ、」
舌打ちしたのは阿近で、しぶしぶ空いていた席に座った。
「てめぇ金持ってるだろうが」
目の前にあった酒をぐいっ、とあおりびっ、と指をさす。
「自分の給料をの大半をわけの分からない半分趣味で構成されている実験に使う人に比べれば持ってるかもね。それより、三席並にもらってる人に言われたくないね」
人に指をさすな、と言いながらも一護も酒をあおる。
手を上げて酒を追加注文すれば、阿近も一緒に注文した。
その量、半端ではない。
「お前こそ平隊員のくせに席官並みに貰ってるんじゃなかったか」
「はぁ、なにそれ。勝手に人の給料推測してんじゃねぇよ。大体さ、六番とか、五番とか、三番とかその他もろもろの隊長方より長く死神やってんだから、そこそこ貰ってて当然じゃねえ?」
「やっぱり貰ってんじゃねぇか。奢れ」
「お前こそ、技術開発局出来たときからいんだから、奢れ」
「お前だって俺と初めてだったころからちっとも姿かわんねぇんだろ。お前が奢れ」
「お前より生きてんだ、年上は敬うべきだろ」
「はっ、そういうのを年寄りの冷や水っていうんだろ」
いや阿近さん、それちょっと違う、とは隣の三人が思ったが、酒と口が交互に動くこの状況に水を差すことなど出来るはずもなく、どんどんペースが上がっていく。
「お前それ、うちと四番、八番、十三番の隊長に直接言って来い」
「勇気と無謀は違うんだよ。お前の名前使ってもいいなら言ってきてやる」
酒の追加!! と手をあげる二人だが、口は休む間もない
「大体、てめぇは一番隊なんて似合ってねぇんだよ。一人浮きやがって、だからウチとか、十一番隊とかメンドくせえところ押し付けられんだよ。十一番隊でしごかれろ」
「冗談。俺まだ死にたくねえ」
「どの口がものを言う。この前十一番隊ブッ倒してただろうが」
「あれは仕事しねえで、四番隊に文句言ってたから相手しただけだし、あれと同類にはなりたくねえな」
「それ斑目三席や更木隊長に直接言ってこい」
「お前の名前出していいなら言ってきてやる」
「ちょ、阿近さん。もうそろそろ抑えて。迷惑ですよ」
「一護、その辺にしとけ」
放っておくとますます過激になっていく口論に、とうとう副隊長三人が仲裁にはいった。
しかし、
「「うっせ、黙ってろクソガキが!!」」
ただでさえ見た目が悪いこの二人に言われたうえに、先ほどの会話から相当年上だと分かってしまい、三人はそれ以上何もいえなかった。





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選択式小説H
阿近さんなのはすきだからです!!
、 ようやくです。
後日談を番外編で書く予定
h20/6/1