「あの、すみません。十一番隊の方ですか?」
呼ばれた声に振り向くと、気の弱そうな少年が一瞬びくついた。
「ああ、すみません。驚かしてしまったみたいで。俺は一番隊です」
目を細めて笑うと、相手は安堵したのか、こちらこそすみません、と呟く。
「いいえ、間違えられることはしょっちゅうですから、お気になさらずに」
「そうですか、えっと……」
首を傾げる少年に彼は微笑み、軽く頭を下げる。
「一番隊の一護です。お見知りおきを」
「四番隊の山田花太郎です」
互いに自己紹介をして、なんだかおかしくなって笑う。
「山田七席!! 彼らではないでしょうか?」
店の中を見回っていた別の隊員が、こそりと耳打ちをし、振り向いた彼が、頷いた。
「すみません。ご迷惑おかけしました」
ぺこりと頭を下げると、花太郎はそのまま別の机に向かってゆく。
「すみません。楽しんでいる中申し訳ありませんが、病室から抜け出されましたね」
「ああ? なんだてめぇ、四番隊が何の用だ?」
屈強な男が数人、彼らを睨みつける。
睨まれた四番隊の面々は怯えたように跡退るが、七席だという彼は、一歩前に出た。
一人の男を見据えてしっかりと言葉を言い放つ。
「あなたが病室にいないということで、探しに来ました。安静にしていないと駄目ですので、一旦部屋に戻ってください」
「俺が何しようと俺の勝手だろうが。俺の体のことは俺が一番良く分かってるっての。大体四番隊なんかにいたら、治るものも治らねえよ」
なっ、と回りに同意を求め、回りもそうだそうだ、とやり返す。
「しかし、卯の花隊長が」
「しつけえんだよてめえは!!」
酔っているのか普段からこの調子なのか――おそらく両方だろう――男は音をたてて立ち上がり、花太郎の胸ぐらを掴みあげる。
彼は男よりも頭一つ分小さいので、つま先が地面にかろうじてついているくらいにもちあげられた。
「山田七席!!」
一緒にいた別の隊員が声を荒げ、男は嘲笑うように顔を近づける。
「お前が七席? はっ、四番隊ってのはマジでお荷物部隊じゃねえか。お前が七席なんて世も末だな」
「ぐっ、…離し……」
「十一番隊に逆らうなんて、馬鹿なこと考えないよう痛い目に合わさなきゃなあ」
そう言って哂う男に残りの男たちも哂う。
そのとき、
「うるせえ」
低い声が響いた。
胸ぐらを掴んでいた手が逆に掴まれ捻りあげられる。
「痛え!!」
「うわっ!!」
男は痛みのあまり手を離す。
花太郎はバランスを崩して倒れかけたところを、別の手に掴まれ難を逃れた。
「大丈夫ですか? 山田七席」
顔を上げると先ほど声をかけたオレンジ色の少年が心配そうな顔で覗き込んでいる。
「あ、はい」
「良かった」
大丈夫だと告げると、一護が笑う。
それにつられて笑うと、手を引かれ空いていた席に座らされた。
「少し待っていてください」
そう言い、一護は十一番隊の男たちに向き直る。
手を捻られた男だけでなく、ほかの男たちも一護を睨んでいた。
「てめえ、見ねえ顔だな」
「隊が違うんだから見なくて当然だろうが、馬鹿が」
先ほどまでの丁寧さなど微塵もない荒い言葉が男たちを詰る。
「大体俺は一番隊だ。てめえらみたいな戦いしか脳のない連中と同じ隊に誰がなるかってんだ」
「んだと!!」
「顔の形変えられてえか!!」
「はっ、団体でしか脅すこともできねえくせによく言うぜ」
「てめえブッ潰す!!」
男達が息を巻く。
一人が彼に飛び掛った。
「危ない!!」
思わず華太郎は声をあげた。
机が倒れ、酒の瓶が割れる。
「って、えっ?」
飛び掛ってきた男をサラリとよけ、鳩尾に膝を蹴り込み潰し、前後から同時にかかってきた二人の頭を捕まえ彼ら自身の頭で頭突きを食らわす。
酒瓶を振り回してきた男には顔面に直接拳を叩き込み、そのまま後ろの男の急所に蹴りをいれた。
唖然としている四番隊の前で、十一番隊の男達の屍――勿論死んではいない――は積み上がっていく。
最後の一人を倒したあと、彼は電子零機を取り出す。
「これで卯の花隊長を呼んでください」
にっこり笑うので、山田は自分のもあるというのも忘れて、そう、どうして他隊の彼が卯の花隊長の連絡先を知っているのかも疑問に思わず、そのまま受け取ってしまう。
「あの、こちら山田七席です。実は……」
『……分かりました。今からそちらに向かいます』
事情を説明すると温和な声がそう告げ無意識にほっと胸を撫で下した。
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――――――
選択小説I
h20/6/3