「にしても、んな大勢で来るか?」
あきれた声を出す少年に、白哉は淡々と返す
「兄が忘れていたら暇だったからな」
「うわひでー。俺、絶対忘れられてるって思ったのに」
どうみても嫌味なのに、それを気にせずさらりと流す少年は髪を掻き揚げる
そこで、皆の『誰?』という視線に気づいた
「ああ、ごめんごめん。俺は一護。一応こいつの友人。よろしくな」
朽木隊長の友人。しかも『こいつ』呼ばわり
恋次をはじめ、同じ隊長である日番谷も開いた口がふさがらない
というよりも、むしろ
「朽木隊長、友人いたんだ」
ぼそりと言った雛森の言葉に、皆うなづく
言葉にしなくても、心中は皆同じ
一護と名乗った少年は、苦笑しながら白哉の肩に手をおいた
「って言われてるけど、普段のお前が目に見えるわ」
その手をうっとうしそうに白哉ははたく
迷惑がられているのを気にもせず、一護は一同に目を向ける
「誰が白哉の副官?」
問いかけに恋次が弾かれたように声を上げる
「俺です。つい最近なったばかりなんですけど。えっと、阿散井恋次です」
「ふ〜ん。お前にしちゃあずいぶん俗物的なのを選んだなあ」
上から下まで眺めまわされて、恋次は居心地がわるそうだった
「あっ、あたし十番隊副隊長・松本乱菊よろしく。で、こっちが隊長の」
「十番隊隊長・日番谷冬獅郎」
乱菊が手を上げてにっこりと微笑み、日番谷が眉を寄せて名を名乗る
それに合わせて各副隊長が名を名乗っていった
それぞれの言葉に一護は復唱する
「恋次に松本さんに冬獅郎にイヅルに雛森さん……、……に修平な。よし、多分覚えた」
笑顔で言った『多分』という台詞に一抹の不安がよぎるが、ここは指摘しないに越したことはない
「相変わらず、覚えるのが苦手なのか」
白哉の嘲るような言葉に一護は眉をよせる
「そんなことないぜ」
「じゃあ、あいつの名は?」
指で指し示したのは恋次で、一護は笑顔で返事をする
「覚えた、電子レンジ!!」
言われた恋次ははぁ? と声を上げ、他のメンバーは吹き出した
「で、電子レンジ!? あはははは、あんた最高!!」
乱菊が腹を抱えて大声で笑う
「ちょ、ちょっと、乱菊さんそこまで笑うことないでしょう!! ってお前らも笑うな!!」
「えっ、俺何か間違った?」
首を傾げて白哉に尋ねる一護に、彼はただ顔を覆って肩を震わせるだけだった
「あはは、まぁ間違ってはいないわね。あんた本当に面白いわね。気に入ったわ」
乱菊は、ああお腹がいたい、と目尻の涙を拭いながら乱菊は答える
「えっと、ありがとう?」
一護が首を傾げて答えるのを見て乱菊はますます一護を気に入ったという
「お久しぶりです、一護さん、白哉さん」
控えめな声と共に引き戸が開かれる
「久しぶりじゃねぇか、ずいぶん老けたなぁ」
「開口一番失礼にもほどがあるぞ一護。元気そうで何よりだ」
現れた人物に一護は笑顔を見せ、白哉は一護の台詞に眉をよせた
「六十年ですからね、老けますよ。もう店も別の者が継いでいます」
寂しそうに答えた男に一護はそっか、と呟く
「約束覚えててくれてありがとな」
「いいえ、こちらも覚えていてくださってありがとうございます」
それで、と男は側においておいた瓶を一護の前に置いた
「これが、お約束のものです」
「サンキュ、じゃあこれと、これはあんたに」
置かれた数本のうち、一本とどこからともなく出した瓶を男の前に置く
「お礼だから、気にせずに貰ってくれ」
目を見開いた男は破顔し礼をいうと下がって行った
「何なの?約束って」
「昔の約束」
そう言って一護は杯に酒を注ぐ
三つの杯のうちひとつを白哉に向ける
彼は何も言わずに受け取った
もうひとつは彼が先ほどまで座っていた窓辺へ
「あとで乱菊さんたちにもやるから、少し待っててな」
そういうと一護は白哉に向き直ると杯を掲げる
「約束通り六十年経った」
「ああ」
言葉少なに返す白哉
「あいつはいない。それでも、お前はここに来た。俺も約束通り見つけた」
「……」
「今仕事中なら仕方ない。今度絶対に合わせろ」
「気が向けばな」
「馬鹿野郎。ルキアのことが分かんねぇから幼馴染の恋次を副官につけたお前が素直に連れてくるとは思わねぇ」
気になる単語を耳にした恋次と眉間に皺を寄せた白哉の視線がぶつかる
「だからこそ、キチッと白黒つけなきゃなんねぇ」
「あいつはそれを望んでなかった」
「それを言われたのはお前で、俺じゃない。だから絶対合わせろ」
静かな声で、しかし否とは言わせない声音で彼は言い、白哉は是と答えるしかなかった
「よし、んじゃ乾杯」
笑った顔はとても嬉しそうで、白哉も無意識に笑みを浮かべた
next
――――――
選択小説K
約束は果たされた
h20/4/24