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『ねぇ、一護』
その優しい声は、遠い昔に自分が失ったものに良く似ていた。
『頼みがあるの』
いつも優しいその声が、悲しみにくれるのを見るのは今日が初めてではない。
彼女は出会った当初からずっとそんな顔をしていた。
どうみても身分が違うその男に出会ったときも、その男と生きると決めたときも。
幸せそうな表情の裏で、彼女は自分を責めていた。
『どうしても、探し出さないといけないの』
泣くのを見たのは初めてだった。
『だから、お願い』
最後の最後まで生きていることを信じ続けていた。
『あの子を、ルキアを見つけて』
だから、探し続けた。
彼女が死んで、彼女と酒を酌み交わす約束が果たせなくなっても。
彼女が探し続けていた少女だけは見つけようと心に誓った。
仲間以外で唯一そう思わせた女だった。
「狭い空だな」
懺罪宮の白い室内でルキアはつぶやいた。
声だけが響く。一人きりの部屋で、返答などあるはずもなかった。
「室内から見りゃ、あたりまえだろ」
だから、返答にルキアは固まった。
「誰だ!!」
「ハジメマシテ、朽木ルキア」
目の前に現れた男は死覇装を身に纏った男。
目立つ橙の髪は風に吹かれていた。
「お前は誰だ」
目立つ橙の髪を持つ男など死神にいない。
そもそも、普通の死神がこんなところに来るはずがない。
此処へ近づくことは禁止されている。
今のルキアは死刑囚なのだ。
その人物に近づくなど、普通なら誰もしない。
さらに此処は絶壁の上だ。足場などどこにもない。
それを男は気にもせず立っていた。
「昨日の警報はお前か!!」
「そんなことより」
男はルキアの言葉を一蹴し、笑みを浮かべた。
それは懐かしいものを見るような目で、ルキアは何故だか心が震えた。
「朽木ルキア。お前は諦めるな」
それだけを言うと男はそのまま身体を反転させる。
「待て!!」
声をあげたルキアを気にすることなく、男は消え去った。
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