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声が違う、姿も違う。もう一人の一護が今までの彼に近くて。
けれど今までの彼は姿を変えたその青年。
「どうでもいいことだね」
一番に声を上げたのはこの世界を反逆しようとした男。
この世界と虚の世界を繋ぐ光の中、男は哂う。
『本当にそう思ってるのか?』
一護、否。虚白が口端をあげた。
指を男たちを捕らえる光に向け、横に一戦した。
――ギャアアア
「何!?」
悲鳴とともに光を形成していた虚は姿を消す。
藍染が地上に落ちる。しかし、藍染は冷静さを失わずに虚空に声を掛けた。
「ウルキオラ」
その言葉に反応するように黒腔と人影が現れる。
死神たちは破面の現れる黒腔に向かい刀を握りなおした。
「ご無事ですか、藍染様」
二人の男と一人の女が藍染、市丸、東仙を支え、地面に降り立つ。
「ああ、助かったよ、ウルキオラ。……どうした」
ウルキオラと呼ばれた破面は藍染を助けた姿勢のまま微動だにしなかった。
他の破面も同様に、ある一点を見つめたまま動かない。
女が言葉を紡いだ。
「一護」
その言葉にもう一人の一護が初めて表情を変えた。
「久しぶりだな、ハリベル。ネリエルは元気か? ウルキオラもグリムジョーも元気そうでよかった」
「お前……いき…て」
どさりとその場に膝をついたハリベルは感極まったように涙を零した。
『どうする?』
虚白が破面たちに尋ねる。
『そのままその男を助けるか、それとも以前のように『王』につくか』
破面たちはその言葉に一護をみたまま答えた。
「もちろん」
「一護だろう」
「我らは誰も戦いなど望まない」
三者三様の答えに虚白は笑う。
まるで最初から答えなど分かっていたかのように。
「なぁ、藍染」
一護はここでようやく死神たちに視線を向けた。
「キミは」
「お前はこの世界の上に立ちたいと言ったね。上に立つことがどういうことか知ってる?」
一歩前に踏み出した一護に虚白は助けるように手を差し出した。
それが当たり前のように一護はその手を借りる。
一瞬虚白が痛みを堪えるように眉を寄せた。
「こは……」
「大丈夫だ」
一護の言葉を遮るように虚白は強い視線を一護に向ける。
一護は頷き、もう一護藍染を見た。
「この世界の王となるにはこの世界に選ばれることが必要なんだ」
藍染は訝しげな視線を一護に向けたまま。
「条件は一つ」
手を伸ばせば触れられるほど、近くに来た一護は藍染の顔に手を伸ばす。
殺気などは感じない。それが藍染を留まらせた。
「内なる虚に打ち勝った者」
頬を包み込んで額を合わせる。
その瞬間――。
「っうわああああああ!!」
藍染の悲鳴が当たりに響き渡った。
数秒の時間をそのまま過ごし、そして気を失ったように崩れ落ちる。
『それが『王』の責務』
藍染は頭を抱えて蹲る。
『『王』とはこの世界そのもの。この土地に選ばれて、『王』となり、この地の記憶を受け継ぐ者』
そしてその記憶は絶えず王に痛みを伴わせる。
「虚白」
一護が白い一護を呼ぶ。
「疲れた、ちょっと休むよ」
ぐらりと傾いだ一護を虚白は支え、その場にいる死神、破面に告げた。
『戦争は終わりだ。藍染たちを捕らえろ。話はこいつが目覚めたときだ』
虚白は愛しそうな笑顔で一護を見つめる。
――ようやく、ようやく長い孤独の時間が終わる。


これが最後だと微笑んで
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