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「私が天に立つ」
最大の裏切り者が哂った。
誰もが苦々しくそれを見ていた最中。
「くだらねぇ」
と声が上がった。
その場にいたものは目を移す。
橙色の髪の少年。
「一護?」
そう誰かが呟いた。
回りにいた死神が満身創痍の彼をとどめようと手を伸ばす。
しかし、青年はその手を跳ね除けた。
一番隊の第三席、名を一護。
各隊の隊長とともにこの場に来た。
実力は誰もが認めるその人物。
「『私が天に立つ』? はっ、くだらねぇ」
地についていた膝を立て、ゆらりと立ち上がる。
「この世に神は、王はいねぇと本当に思ってやがるのか?」
「一護?」
誰もが違和感を感じた。
いつもこの少年がまとう空気ではない。
やわらかく、多くを包み込むのではない、刺すような冷たい霊圧。
いつも温和で優しい人から好かれる青年の雰囲気がガラリと変わる。
くつくつと哂い、肩を震わせる。
「……」
藍染が不信そうに眉をひそめた。
「お前が天にたつ? 無理だな。この世界に天はない。ただし王はいる」
一護の霊圧が上がっていく
「このおろかな世界に選ばれた王が」
「君は誰だい?」
穏やかなようで、冷たい眼差しが一護を射抜く。
「俺か? 俺は『一護』だよ」
お前らが知る一護だ、と哂う。
そして目を空に向けて細めた。呟いた声が、小さいのに響き渡る。
「もう、寝る時間は終わりか?」
『そんなことをしている場合じゃなくなっただろう』
一護の呟きにどこからともなく声がした。
一護は何もない空間に手を差し伸べる。
誰もがその瞬間を見た。
手を差し伸ばした先の空間が歪む瞬間を。
空間はどんどん歪む。
歪んだ場所の霊圧が濃くなる。
手の先に手がのせられる。
指の先からヒトの形が作られていく。
すべてが現れた瞬間、皆息を飲んだ。
「お帰り、一護」
「ただいま、虚白」
同じ顔、同じ刀。まるで鏡のように瓜二つの青年。
視線をこちらにむけず、一護は目の前の青年の前に跪いた。
「あんたが馬鹿なことを考えるから、起きちまった」
「でも、絶対はないことが判明した」
同じ声でもう一人の一護が呟いた。
目を閉じた一護の額に、もう一人の一護が手を添えた。
その瞬間に一気にその場を一つの霊圧が支配する。
霊圧に皆が自分を庇うため視線をずらした瞬間、みなれた橙色は消え、白い色が舞った。
霊圧が収まり現れたのは、白い死覇装、白い髪、跪いた一護、そして黒い死覇装をまとったもう一人の一護。
「一護?」
誰かが呟いた。
『違う』
跪いたままの一護が否定する。
『俺は虚白。一護とは、この世界に選ばれた王の名前』
理解できず、誰もが言葉を失う。
それを二人の一護が見ていた。



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