『好きな奴ができた』
そう言ったのはいつだったっけ?
しかも後から知った相手は競争率の高い彼女
その相手と結婚するなんて、ずいぶん一途だったんだね
じゃあ、どうして俺といたの?
暇つぶし?
冗談じゃない
俺はこれでも本気だった
ああ、確かに長く続かないって勝手に思った
今までも何度か付き合ってる奴がいたことも知ってる
でも、長続きしなかった
だから安心してたんだ
その間も俺達の関係は続いていたから
ずっと隣にいるのは俺だと思っていた
何の確証もなく、それが永遠に続くと
告げられたときに気づくべきだった
彼は告白されたことはあっても、自分から告白したことはなかったことに……


星屑U


「おめでと、これから呑みに行くとき誘わないことにするな」
にっ、と笑ってからかうように言うと、彼は嫌そうな顔をする
「そんなこと言わずにさぁ、たまには息抜きも必要じゃん」
肩に腕を廻ししなだれかかる彼に、俺は意地悪そうな顔を見せれているだろうか
「呑みにいくのは一人身だ〜け。何? 別れる?」
「ばぁ〜か、誰が別れるかよ。いいさ、俺は俺と呑みに連れて行ってくれる奴といくから」
拗ねたように口を尖らせると、女死神に囲まれている最愛のヒトへと踵を返した
彼が笑い、回りも笑う
誰もさっきの真意を知らない
『別れる?』
精一杯の本音を交えたのに、誰も彼も気づかない
気づかなくていいんだ、あんな本音
花嫁の隣に立つ俺の最愛のヒト
隣にいると思っていたのは俺だけだったようで
その証拠に俺をみても顔色一つ変わらなかった
輝き続けていた星は、光を失って、ただの屑になってしまった
その場がお開きになったから、こんなところに長居は無用とさっさと帰ろうと足を外へと向ける
「修兵!!」
呼びかけたのは彼
背を向けているわけだから、気づかずに去ろうとしたのだが、回りがそれを許さなかった
ご丁寧にも、俺の肩を掴んで呼んでますよ、と伝えてくる
そのまま去るわけにもいかなくなり、不承不承に振り返ると彼だけじゃなく、彼女も一緒にやってきた
「何帰ろうとしてんだよ、飲み会、お前も来るだろう?」
「良いですねぇ、って言いたいっすけど、隊長副隊長が集まる中で酒を飲んでても呑んだ気にならないから遠慮させてください」
苦笑しながら答えると、彼は食い下がる
「いいじゃん、上に昇るチャンスだと思えば。でも、普段のお前なら二つ返事に受けるのにめずらしいな」
「めずらしいって、俺結構繊細なんですから、気をつけてください」
「嫌だね。さっき俺の繊細な心を傷つけたんだから、その代償払ってもらわないと許さねぇ」
「子供みたいなこと言ってると、嫁さんに愛想つかされますよ。結婚できたの奇跡と思わないと。次は絶対無いでしょうから」
嫌味を嫌味で言い返す、そんな子供じみたことをやっていると、彼の隣で彼女が笑って諌めた
「あなた。いい加減にしないと、私じゃなくて檜佐木さんに愛想をつかされますよ」
「お前が言うなら仕方がないな」
たった一言で彼は引き下がる
「はは、夫婦喧嘩したときくらいなら付き合いますよ。オシアワセニ」
茶化して笑ってその場を去った
「お前も良い相手見つけろよ」
後ろ背に声をかけられる
あなたがそれを言いますか?
俺の幸せはあなたといることだったのに
女死神のなかには感動して泣いている者もいたっけ
俺も泣いていいかな?
泣きたいくらい幸せな二人を見て、彼の中に俺は存在しないのだと思い知らされた


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一人称が苦手です
h20/3/07