――あんたは何がしたかったんだ
星屑X
「檜佐木副隊長、ちょっとよろしいですか?」
「おう、どうした」
「この間の任務のことで……」
あれから時間は流れに流れ、副隊長にまで登りつめた
「なるほど、ありがとうございます。助かりました」
「ああ、また何かあったら言ってこい」
隊員がはい、と返事して部屋を出て行く
「修兵もすっかりなれたね」
入れ違いに入ってきたのは隊長
「東仙隊長、お疲れ様です」
隊首会から帰ってきた隊長にお茶を淹れようと立ち上がったら制された
「ああ、構わないよ。今日の分はもう終わったようだね。うん、今日はもういいよ」
盲目だとは思わないほど自然な動きで自分の席へ戻ると、にっこりと笑う
「でも」
「副隊長になってから働き詰めだと思うよ。仕事も大切だけど、自分も大切にしないと」
やんわりと拒否されて分かりました、としか答えられなかった
「なんだか心配されてばっかだ」
昨日は恋次にも疲れてませんか、と心配されたっけ
「なんだかなぁ」
部屋を出、ひとりごちて空を仰ぐと鬱陶しいくらいの青空が広がっている
ぼんやりしていたから、気づくのが遅れてしまった
「おーい、修兵」
「あ……」
下の階から気づいたのか彼が手を振っている
とっさのことで固まったが彼は気にすることなく笑顔を見せる
「ちょっと待ってろよ」
口元に手を添えて声をあげたと思ったら、彼は視界から失せた
逃げたい、素直にそう思った
けれどここからいなくなっても、霊圧を追って来られるのは明白
それから、なんで逃げた、と追求が待っているんだろう
「よう修兵、久しぶりだな」
すれ違う平隊員の挨拶を軽く返しながらやってくる彼はただただ笑顔
そういう俺は顔の笑顔が引きつっていることに気づかれないよう祈るだけ
「はぁ、そうでしたっけ」
昔は彼と会う日のほうが珍しかった
副隊長になってからは、副隊長会議で会うが最近はそれもない
平和な証拠だと思う
世界にとっても、俺にとっても
「なんだなんだぁ、そのノリは。最近飲みに誘っても来ないし」
「慣れなくて必死なんですよ」
あえて何にとは言わない
だけどそれは彼のとる解釈ではないのは確かで
「本当か?」
曖昧に返すがそれが不満だったらしく、眉間に皺が刻まれた
「お前俺を避けてるんじゃないだろうなぁ」
どきりとした
そのまま彼は手を伸ばす
「まぁ、顔色悪いから疲れてんだろうけど」
伸ばされた手が頬に触れる瞬間、びくりと体が強張った
すぐにまずいと思ったが、それを彼は見逃すはずもなく、怪訝そうに皺が深くなる
「修兵」
一瞬の隙が終わりだと分かっていたのに
「おま……」
「檜佐木」
ばれた、と思ったそのときに会話を遮って声がかかった
「あれ、あんた」
鬼は彼に軽く頭を下げるとこっちをみて面倒くさそうに言った
「検診、最近こなかったろ」
「あっ」
目の検診
右目の光を失ったのは院生だったころのこと
彼が造ってくれた義眼は精巧だが何が起こるか分からないため、定期的に検診をしなくてはならない
副隊長になってから忙しすぎてまったく行っていない
「ごめん、俺行くわ。またな」
まだ伸ばされたままの彼の手を避けて白衣の後に続く
「ああ、またな」
怪訝そうにしながらも彼はそれ以上追及することなく手を振った
彼の仕事部屋に入ると彼はそのままでかいソファにどかっ、と座る
「検診は?」
「ああ゛」
そう聞いたら機嫌が悪そうに睨んできた
やっぱり、と思う
あれはあそこから去るための口実
彼は身を乗り出して俺の腕をとる
だって、彼とはよく会っているから
夜に、彼のまたは俺の部屋で
引き寄せられて、拒むことはしなかった
next――――――
修兵引きずりすぎだ
一途ともいうけど
あと三話の予定
h20/3/25