あれからまた少しだけ月日が過ぎた
俺はまだあの鬼に甘えている
ここにいちゃいけないのだと分かっていても優しい彼に甘えている
甘えすぎてもう立てなくなりそうだ
ほら、また



星屑Y



「どうした?」
気だるい体を布団に横たえたまま、ぼう、として天井を眺めていると声がかかった
手が髪を撫でてくれて、それがとても心地よい
彼の手はいつもは冷たいのに、事情後は人並みに暖かい
それが拍車をかけて眠気が俺を襲う
「……」
「……」
尋ねたままそのまま黙ってると、彼もそのまま黙った
いつもそう、言いたくないことはそれ以上聞かないでくれる
「……あのっ」
一度聞いたまま話すまでも時間がかかるから、それも気長に待ってくれる
本当に優しいと思う
「……どうした?」
優しく促す
「……やっぱりなんでもない」
「そうか」
そしてまた沈黙
でもそれが嫌ではなかった

……今までは
気づいてしまった
知らなければならなくなった
あきらめることをしないと駄目で
前に進まないといけなくて
そのために何かを犠牲にしたつもりはなかったのだけれど

視線を向けると紅い瞳とぶつかった
何か言いたげなのを気付いたのか、いつもは聞かない三度目の問いかけ
「……どうした」
ゆっくりと身体を起こす
夜独特の冷気が一つしかない布団に滑り込んできて、汗ばんでいた身体を撫でる
軽く身震いをすると風邪をひくぞ、と声がかかった
その声に目を細める
優しいその声に後ろ髪を引かれる
けれど、それじゃいけないのだと知っている
前に進まなくてはいけなくて
そのためにはスタートラインに立たなくちゃ
ずいぶん遅くなってしまったけれど
走るコースも違ってしまったけれど

思い切って出した声が震えているようで、情けなかった
「もう」
優しい人よ、俺に勇気をください
「来ない」
怪訝そうにしている彼に口づけて囁く
「さようなら」
精一杯の笑顔を魅せた



next――――――
会話がねぇ
まぁ一人称はこんなもんか
(と、自分を納得させてみる)
h20/4/3