「一護、これ十二番隊に持って行ってくれ」
「はい」
数枚の書類を渡されて、部屋を出た
この手の書類を渡しに行くものは大体限られる
他に、十一番隊、技術開発局も同じ
行きたがらないものが多いところほど、一人でいるものが行かされる
面倒くさいが、人と付き合うことよりよほどいい
それに一番隊より十一番隊や技局の奴らのほうが、見た目に恐れることなく、何も気にせずに付き合ってくれる
それがどれほど楽か
書類を提出し、帰って来たとき副隊長が向こうから歩いてきた
「お疲れ様です。どこか行かれるのですか?」
通りすがりに頭を下げながらたずねる
「今から副隊長会議でね。君は?」
「書類を提出してきたところです。引き止めてしまい申し訳ありませんでした」
もう一度頭を下げると構わないよ、頑張りたまえ、と声が振ってきて、去っていく足音も聞こえた
「じゃあ今隊長室にはアイツ一人か。丁度いい」
付近に誰もいないことを確かめると、平隊員ならぬ言葉を呟き隊長室まで歩く
こんこん、とノックをすると中から入れ、と声がかかった
「失礼します」
回りに誰もいないことをもう一度確かめてから中に入る
「何用じゃ」
隊長としての仕事を続けながら尋ねてきた
「相変わらずここは鬱陶しいな」
腕を組んで、閉めた扉にもたれかかる
呟いた言葉にようやく総隊長は入ってきた者を知り、筆を止めて向き直った
「何用じゃ、黒崎」
もう一度、尋ねる
それも、彼が日ごろ名乗る名前ではなくて、彼しか知りえない苗字で
苗字は族、つまり血筋を表す
彼の血筋を知るものは、もう殆どいないと言ってもいい
現朽木家当主でも知らないだろう
失われた一族
『黒崎』
最後の一人と言われているのが彼だ
その血筋ゆえ、彼は苗字を名乗ることはない
「めずらしいのぅ。おぬしが来るときは面倒ごとが起こるんじゃが」
一護としてではなく、黒崎としての態度
それを意味するものは一つしかない
「なにが起こる?」
「分からない。だが、前よりも大きなことが起こる」
「おぬしも動くか? 黒崎として」
細い瞳に光が宿った
いや、と彼は首を振る
「俺が黒崎として動くことは二度とない」
けれど、もう一つ切り札は残っている
「出来れば動きたくはないさ」
抑揚のない声が哂いを含んだ
「用心だけはしておこう」
「尸魂界だけではない、おそらく現世をも巻き込むぞ」
それは確信、外れたことは一度もない
「それでも、何が起こっているのかは分からなくては動くに動けまい」
そういうと彼は俯き、一言ごめんと呟いた
感じることだけしか出来なくて悪いと謝罪する
何が起こるのか分かれば、手立てがあるのに
救えたのに
そのまま彼は出て行った
最後にもう一度ごめんと呟いて
残ったのは一番隊隊長・山本だけ
書類を端に束ねて、手で顔を覆う
彼が謝る必要はない
謝らなければならないのは、何も出来ない己だ
これから何が起こる
また、彼を傷つけなければならないのか
屈託なく笑いあった昔が懐かしい
もう一度、彼の笑う顔が見たい
そのために自分は何ができるのだろう
八番隊隊長は執務室に書類を届けにきた人物に目を丸くした。
「あれ、浮竹調子いいの? なら今日お酒呑みにいかない?」
「まったくお前は…。
Which?
ああ、仕方がないな」 Or 今から四番隊に行くから、今回はパスだ。また誘ってくれ」
――――――
選択式小説B
総隊長と彼の接触その一
その二は小説Dになります
これよりもっと淡白ですね
総隊長が一護と気づかなかったのは、霊圧が平隊員だったので、気にしていなかったのです
でも一護と気づいたので態度を改めたというわけ
h20/2/26